僕らの終焉紀行 | ナノ

殺意を刻み付けるように






冷蔵庫がからっぽだったから、コンビニに出かけた。それで月が綺麗だったから帰るついでにそのまま散歩をしていた。ただそれだけだったはずなんだけど。と、吹っ飛んできた公園の遊具を眺めながらぼんやりと思う。本当、見れば見るほど変な生き物だ。
それにしても、あの薬、変な生き物こと虚に見つかり難くなるんじゃなかったのかよ。
心の中でニヤニヤ笑う下駄帽子に舌打ちをする。
聞き覚えのある耳障りな呻き声が聞こえた。しかもかなり近くで。なのに姿は見えない。もしかして姿を消せるタイプなのだろうか。

「…虚圏帰りの僕をナメるなよ、雑魚が」

目を閉じて空気の違う場所を探す。霊圧が小さいと言うか、薄いと言うか、あの虚は強くないのかどうかは分からないが、どうも見つけ難い。まるで空気に溶け込むような感じだ。まあ、そもそも霊圧を消せるだけという可能性も捨てきれないのだけれど。
そう脳内で考えていると、ざわざわと空気が振動した。周囲の木が何かを避けるかのように揺れ出す。
ふと、霊圧の塊のようなものが飛んでくる気配がした。僅かに重心を右にずらし半歩横に移動する。その瞬間、轟音と共に真横の地面が抉れた。

「え…ちょっと、嘘だろ…」

当たったら、確実に死ぬ。
その威力に冷や汗をかきつつ、頭の中ではどうやって逃げるかをひたすら考える。
とりあえず、普通は飛んできたものの先に飛ばしてきた本体がいる。普通なら、だけれど。
それよりも抉られた地面を見ながら冷静に分析している自分に吃驚だ。

「…そこかっ!!」

腕全体を使って、勢いよく細身のナイフを投げつける。喜助さん特製の対虚用のナイフだ。常日頃から服のどこかに隠し持っていてよかったと思う。
見事に刺さったナイフは、虚の姿を現させたと同時に一瞬にして拘束する鎖のようなものに変わった。

「よし。それじゃあ、逃げるが勝ちってね…!!」

虚がじたばた暴れている隙に家に向かって全力で逃走する。ふん、僕に追いつけるわけないだろ。何年逃げ続けてると思ってるんだよ。
まあ、本当は逃げるより倒すのが手っ取り早いんだろうけど、自分で倒すなんてわざわざやらないよ。第一、そんなの僕の仕事じゃないし。しかも話しによれば死神とやらの仕事らしいじゃないか。そういえば僕に死神の話をしていた藍染さんが若干生き生きとしていたような気がする。しかも分かりやすかったし。もしかして教職の才能でもあるんじゃないかあの人。
だなんて、そんなことを思ってる間にどうやら虚は上手く撒けたようだ。

「はぁ、はぁ…あー疲れた」

後ろを振り返って遠目に確認すると、諦めてくれたのか虚はもういなかった。
…とりあえず、お腹空いた。




  * * * *




どうやら僕は道を一本間違えたらしい。まあ、マンションが見えるだけマシなんだけど。

「あーもう今日は厄日か何かかよ」

ぼそりと悪態をつく。
愚痴ってもしょうがないのでマンションを目指して歩き始めた。もう散歩なんて絶対しない。
ため息混じりに歩いていると、ふと背後に違和感を感じた。とりあえず背後霊とか虚じゃないことを祈る。
さっきの事もあるので念の為、さり気なくパーカーのポケットに手を突っ込んで対虚用のナイフを袖に滑り込ませた。感触からしてどうも、いつも持ち歩いてる折り畳み式のものが最後の一本らしい。
元から図太いのか僕の精神は恐怖といった感情はあまり感じないが、背後に何もいないことを祈りつつ、後ろを振り返った。

「やーっと振り返ってくれた」

「っ…!?」

袖から素早く出したナイフで振り下ろされた刃を反射的に防ぐ。
幽霊でも何でもなく、宙に浮く金髪おかっぱがニヤニヤと笑いながら見下ろしていた。

「ほらほら、反撃せんでいいんか?」

「ちょっ…と、誰だよアンタ…!!」

ニヤニヤ笑いながら刃物で攻撃してくる知り合いなんて、生憎僕にはいない。
同時に恨みでも買ったかと思ったけど、外ではいたって普通の生徒だから恨まれる覚えもない。逆恨み、も多分無いと思う。というか思いたい。
もう本当、誰だこいつ。

「考え事かァ?」

エラい余裕やないか、とケタケタ笑いながら言ってるけどむしろお前が余裕じゃないかと突っ込みたい。

「っさい、な!」

ああ、もう。本当にムカつく。
力任せに振るったナイフは、彼の鼻先を微かに掠めた。

「!へぇ…ちょこまか逃げ回ってたわりには中々やるやないか」

薄皮一枚切れた鼻先を押さえて愉しげに笑う。
偶然だったんだけど、何か勘違いされたようだ。

「ありがとう。ねえ、何が目的なの?」

今のところ、襲い掛かってくる気配はない。ナイフを下げた僕を見て、彼も刀を鞘に戻した。

「目的?ンなもん無いに決まっとるやないか」

「…は?」

「そんな見つめられたら照れるやろ」

興が冷めた、とでもゆうのだろうか。
顔を赤く染めた男に何だかもうどうでもよくなった。

「…もういいや。さよなら。二度と会わない事を祈ってます」

「ちょ、いきなり他人行儀とかやめろや!!寂しいやろ!?」

くるりと背を向け足早に逃げる。追ってくる気配はしないけど、去り際に聞こえた明日になれば嫌でも解る、の一言が、やけに耳に残った。




  * * * *




「おはよう、一護」

「うおっ…!?」

突然背後から現れんな、と怒る一護が面白くて思わず笑みがこぼれる。

「ったく、お前は相変わらずだな」

「当たり前だよ。人はそう簡単に変わらないって」

「…そう、だよな」

そう言って考えるように、一護は少し俯いた。
学校全体が、夏休み明け独特の少し浮ついた雰囲気で満たされている。すれ違った同級生に渡されたお土産を片手に一護を見た。相変わらず眉間に皺が寄っていて、何かに耐えるような顔をしている。

「なぁ識」

突然顔を上げた一護と目が合う。驚いたのか、口をつぐんでしまった一護に先を促す。

「…お前、さ。最近何か変なもんとか見えたりするか?」

「何、それ?」

見えるとも見えないとも言わなかった。
曖昧に誤魔化すように、少し笑いながらホラー映画でも見すぎたんじゃないの、とわざと茶化す。

「いや…何でもねぇよ」

安心したように笑った一護に、係りの仕事があるからと、僕は逃げるようにその場を去った。
そういえば、あとで聞いた話だけれど一護のクラスに転入生が来たそうだ。金髪おかっぱで関西弁で喋っていたと、見物に行った同級生が教えてくれた。













殺意を刻み付けるように











(平子、真子)(明日になれば嫌でも解る、ね)(なるほど、そういう事か)

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