僕らの終焉紀行 | ナノ

自傷行為じゃ足りないよ






すとん、と見慣れたベランダに飛び降りる。

「ありがとう、ウルキオラ」

お礼を言うと、ウルキオラは薄く笑った。

「俺がしたいと思ったからついて来ただけだ」

ふい、と目を逸らしたウルキオラに微苦笑する。
普段から虚夜宮の人たちの生活リズムがバラバラなこともあって、長く彼と時間を過ごしたおかげか、以前よりだいぶ打ち解けた気がする。表情の変化もよくわかるようにもなった。

「…気をつけろ」

「ふふ、大丈夫だよ。僕だって少しは戦えるし」

元々喜助さんからある程度の戦闘力は叩き込まれていた。もちろん対虚用に。

「ウルキオラだって褒めてたじゃん」

「人間にしては、な」

霊力の低い人間にしてはよくやれる方だと思う。でも、実際に虚を昇華するまではいかない。

「大丈夫だよ、僕は」

自分が弱いことなんて知ってる。実際、ウルキオラ以外の十刃、特に戦闘好きの奴らにはほとんど良い顔なんてされなかった。実力主義の世界だから当たり前と言えば当たり前なんだけれど。
思い出して少し苦笑いをしたら、ウルキオラはいつものように片手をしまったまま、緩慢な動作で頭を撫でた。微かに細められた目に一瞬心臓が煩くなる。頭から頬へと滑り落ちた白すぎる手に制止の意味も兼ねて自分の手を重ね、翠色の瞳を見て言う。

「大丈夫だよ、ウルキオラ」

自分に言い聞かせるように、ゆっくりと呟く。大丈夫だから、と。
しばらくすると、軽く握った手からウルキオラの手が抜けた。

「ああ…また来る」

そう言うと、ふわりと風を巻き上げてウルキオラは黒腔の中へと消えていった。

「……大丈夫。大丈夫だよ、僕は」

閉じていく黒腔を見て、呟いた。




  * * * *




「はぁ…」

部屋に入ってすぐ、普段からベッドとしての使用頻度の高いソファに横たわった。
あれから虚圏に何日か滞在して、藍染さんのアドバイスもあって僕は現世と呼ばれている僕も含めた生者の暮らす世界に戻ってきた。
正直に言ってしまえば、こっちに戻ろうとはあまり考えてなかった。楽しいことも多いけれど、ここは虚圏に比べると少し息苦しい。実際に呼吸がし難いわけではなくて、雰囲気、とでも言うのだろうか。疎外感によく似た息苦しさだ。
喜助さんから教えてもらった事に嘘偽りは全くなかった。僕の命に関わる事というのもあるのだろうけれど、ただ単に虚のことだから嘘の吐きようがなかっただけかもしれない。
でも、教えてもらった事が全てだとは思ってなかった。少なくとも、喜助さんに隠し事があるのには気付いてた。実際、教えられてない事が多かったし。
だから、抜けていた事実を知った今、それを余計に感じる。

それなりに、仲良くやれていたつもりだった。進学や施設の問題で迷惑はかけてしまったけれど、喜助さんは勿論ジン太や雨ちゃん、テッサイさんとだって上手くつきあってた。
なら、なんで…。
そこまで考えて、再びため息を吐いた。
多分、喜助さんは巻き込みたくなかったんだと思う。何だかんだで優しいし、身内に結構甘いところがある。
でも、だからこそ、教えてもらいたかった。
会って数日の藍染さんたちを信用してるわけじゃない。でも多分嘘は言ってない。藍染さんはきっと喜助さんと同じタイプの頭脳派だ。そんな人が自分は反乱軍だなんて言うメリットは無いと思う。

「だけど、」

ただの、気まぐれだとしたら。
天才の思考なんて常人には理解できない。

「…そんなわけないか」

そんなこと言って全て疑ってたら身動きがとれなくなってしまう。考え過ぎて頭がおかしくなりそうだ。とりあえず、疲れたから寝よう。
ポケットからケースを取り出して、その中に入った小さな錠剤を口に入れる。夏休みに入る前に喜助さんからもらった薬だ。なんでも、少し眠くなるけど飲んで数週間は虚に見つかりにくくなるらしい。よく追いかけられていた僕は結構重宝させてもらっている。

「あ…もう残り少ない」

口内で転がすと、微かな苦味が広がった。噛み砕いて唾液で飲み込むと、少しずつ睡魔が表に出てくる。













自傷行為じゃ足りないよ












(水に沈むように、意識が深くゆっくりと堕ちていく)
(もう何も考えたくない)(この世は息苦しいし、何より疲れる)

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