僕らの終焉紀行 | ナノ
窓ガラスを割ってから
最初に会ったのは、中学生の時だった。私服姿の識を女の子と間違えて声をかけたのが最初。後ろ姿だったから間違えてしまったんだ。
今はもう、どんなに華奢でも男女を見間違えるなんて事はないけれど。
その時の事を思い出して笑みを浮かべていたら、屋上に聞き慣れた声が響いた。
「水色」
「…ああ、なんだ識か」
携帯を操作する手はそのままに、どうしたの、と言えば、無言で紙袋を差し出された。
「これ、三年の…えーと、まあいいや、先輩から」
水色君に、とあまり似てない声真似をしながら僕に渡した識はニヤニヤしている。
「ああ…覚えてたんだ、あの人」
「同じ学校の人に手を出すなんて、珍しいね」
「別に…」
そこまで珍しい訳ではない。
隣りに座った識を横目に、作ってもらったお弁当を広げる。彩りはいいけど、冷凍食品が無いからか今回も成長期男子には量が少なかった。
「あれ、水色それで足りるの?」
横から覗き込んだ識は、相変わらず目敏い。
「んー、ちょっと足りないかも」
だから識の分けて、と言ったら嫌だと即答された。
「水色に分けたら僕が足りなくなるよ」
「残念」
「…あ、食後に食べようと思ってたリンゴならあるけど、食べる?」
「うん、ありがとう」
渡されたタッパーからはリンゴの甘い香りがした。
「水色、いい加減料理くらい覚えたら?」
「んー?料理得意な女の子ならいくらでも見つかるからいいんだよ」
少し言えば喜んで作ってくれるしね。
嫌味が伝わったのか、識はからかうように笑みを深めた。
「僕と違って?」
「識は頼んでも作ってくれないだろ」
「だからって押し掛けるのはどうかと思うけどね」
「あれは啓吾が言い出しっぺだよ」
失恋したから慰めろと言われて、適当に聞き流してたら識にまで飛び火した時の事だ。
「まあ、楽しかったからいいけどさ」
「そっか」
小さく笑った識に、また行くねと言ったらそういう意味じゃないとど突かれた。
窓ガラスを割ってから
「はぁ…」
携帯を閉じて、ベッドの上に放り投げる。
女の子からしか届いていないメールにため息を吐いた。
夏休みに入ってから数週間。識との連絡が途絶えた。電話も出ない、メールも返ってこない。
「あんまり心配させないでよ」
(大切だから、心配する)(心配するから、不安になる)(不安になるから、特別だと思う)(特別だと思うから、愛おしいと思う)(愛おしいと思うけれど、)(これは恋でも愛でもないんだ)
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