僕らの終焉紀行 | ナノ

忘却の彼方へ飛んで逝く





何故忘れたの、と僕は嘆いた。

何を忘れたの、と僕は聞いた。

「ならもう一度見せてあげる」

僕の記憶を。僕の未来を。

「忘れるなんて、させないよ」

僕は呟いた。無表情で。
そして僕はまた、夢を見る。

「…何度だって、見せてやる。僕が思い出すまでは、絶対に。その日が来るまで、僕は決して諦めない」




  * * * *




夢の中、僕は佇んでいた。否、何かと対峙していた。

「――――××××。返してくれないかな、僕の大切な人を」

意思とは反対に、口が違う生き物のように勝手に動く。
何故か、ぼやけてよくは見えないそれは、とても恐ろしいものだというのは理解出来た。見たこともないのに、だ。

「早くその汚い足を退けろよ、化け物が」

思わず空笑いしてしまう程、自分にしては酷く辛辣な言葉だと思う。

「逃げて、…!!」

甲高い女の声。
何を言ってるんだ。周囲の状況もよく解っていないのに、逃げるも何もない。
そもそも僕は逃げてはいけない。彼を、助けなきゃいけないのだから。
…あれ?
彼って、誰だ?

「………逃げろ」

誰だか解らないけど助けなきゃいけない彼が逃げろと言う。

「逃げないよ、僕は」

逃げられない僕が、彼の目を見据えた。

「今のコイツは正気ではない。いくらお前だとしても、お前だと認識されずに殺されるのがオチだ」

「僕には帰る場所も、逃げる場所もない」

「それでも、早く逃げろ識」

ぼやける視界は白んできて、何も見えない。白い空間でドラマCDを聞いてるような感じだ。

「っイヤだ!…もし、もしも僕が帰る場所があるとしたらそれは、あなたの所なんだよ――――――ウルキオラ!」

ウルキ、オラ。
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。

「―――――!!!!!」

物凄い爆音と衝撃。
そして、激しい身体の痛みに、僕は意識を失った。




  * * * *




……………。
夢は、覚めなかった。
…違う。あれは夢じゃない。ただの、記憶。
眼下に広がる漆黒の闇の中、今日も夢の世界で僕らは出会った。

「また思い出さなかったんだね、僕」

前回も思い出せなかったから、また夢を見た。同じ夢を。だから、今僕は僕に会っている。
思い出さない限り、ずっと夢を見て僕に会う。此処はそういう仕組みの世界だ。

「もう忘れるなって、言ったのに」

前回も前々回も、僕は確かに怒っているのに、その理由が解らなかった。否、思い出せなかった。

「本当、僕のくせにどうして忘れるのかな」

眉を下げ困ったように笑うのは、紛れもない僕そのものだ。
同じ顔に同じ声。全てが同じ僕らが唯一違うもの。
それは、記憶。

「………ごめんね、僕」

次は、忘れないよ。
絶対に、忘れない。

「………、…もう二度と会わない事を祈ってるよ」

「うん。思い出させる事を諦めないでくれてありがとう」













忘却の彼方へ飛んで逝く













そして、目が覚めても覚えてた夢―記憶―
さよなら、今までの僕。
こんにちは、新しい僕。

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