僕らの終焉紀行 | ナノ

絡み付いた温もり





「ウルキオラ」

藍染様に呼ばれて急いで広間に来たのはつい先程のことだ。

「最近は…随分と積極的に様子見≠してるようだね」

「…………」

俺は、何も答えられなかった。

「ああ、怒ってる訳ではないよ。むしろ、私は嬉しいんだよ」

嫌な予感が体を駆け巡る。

「そこでウルキオラ。そろそろ、彼を此方に連れて来させようと思うんだが」

全て、君に任せてもいいかな。

いずれ必ず起こる事だと解っていた。そして、黒崎一護という死神もどきや浦原喜助に関わりがあるという時点で、どちらかに着かせなければ危険だということも。

「――――藍染様の、御心のままに」

それでも俺達側に来ることにより夢≠フように失う危険があるのならばいっそ――――――。

「期待しているよ、ウルキオラ」

藍染様の言葉を聞いた後、俺は響転で広間を出て行った。

識の所に行く、直前の出来事だった。




  * * * *




通い慣れたマンションの一角、開け放たれた窓に不用心だと思いながら入らせてもらった。
入った時に生じた風で小さな風鈴が鳴るも、外の世界から切り離されたかのように静かだ。
初めて来たときから思っていたが、物が必要最低限しか置かれていないこの家は、まるで自宮にいるようで落ち着ける。

「……寝てる、のか?」

ふと目にした白いソファに、丸まっている塊を見つけた。

「識…」

穏やかな寝顔が夢≠ナの識の最期と重なる。顔にかかる髪をそっと払ったら、擽ったそうに身を捩り、うっすらと目が開いた。

「…ウルキオラ?」

朽葉色の瞳が俺を見上げる。寝起きのせいか、少しだけ潤んでいた。

「識、お前に話しがある」

話し、と呼べる程のものじゃない。最早命令と呼ぶ方が相応しいだろう。

「ウルキオラ、ど…」

「共に来い」

藍染様から命令された時点で拒まれるのは覚悟の上だ。

「…ウルキオラ、どうしたの?」

「……、……お前は、」

眉を下げ心配そうに俺を見る識を、見つめた。
所詮、ただの夢。たかが夢に影響されるなんて俺らしくもない。

「ウルキオラ…?」

「識、何も聞かず俺に着いて来い」

全てを俺に委ねると藍染様は仰った。だから無理に連れ帰る必要はないのだろうが。

「拒否は許さない。…縛ってでも、連れて行く」

退路を断たせた上で決めさせようとする俺に、自嘲がこぼれた。

「――――識」

俺は、今まで普通の生活をしてきた人間に平和な日常を捨てろと言ってるも同然だ。
命令だからとかは抜きで、出来れば一緒に来てもらいたい。でも、連れて帰りたくないとも思った。
もしも、どうしても嫌だと言われたなら今までの記憶を消して、俺は識の前から消えればいい。
そして藍染様に頼んで任務を誰かに代わってもらおう。

「…これから行く先に、ウルキオラはいるんだよね?」

「ああ、」

「それなら行くよ」

随分とあっさり決断した識に、もう一度聞いた。

「…本当に、いいのか」

妙な不安を感じるのも、全て夢のせいだ。夢にしてはリアル過ぎるあの夢≠ェ、現実になりそうで怖い。

「うん」

「俺の住む世界は、常に死と隣り合わせだ」

「僕は、死なないよ。…だって、ウルキオラはそんな世界でも僕を守れる自信と力があるから連れて行こうとしたんでしょ?」

ニヤリと笑った識に、俺もつられて口角が上がった。
先ほどまで感じていた不安や恐怖は、消えていた。

「当たり前だ」

何を恐れていたのか。俺は第4十刃。弱肉強食が当たり前の破面の中でも上から四番目の実力を持つ。

「俺が、お前を守ってやる。…だから何も気にせず俺と共に来い―――識」













絡み付いた温もり











夢ならば覚めないように、夢のように消えないように。互いに互いを縛る鎖となろう。
今度は必ず、生きて守り抜くから。

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