僕らの終焉紀行 | ナノ
海の底で眠りたい
ゆらゆらと、揺れる着物の袖が薄く開いた眼に映った。
≪嗚呼…目が覚めたのね…≫
髪を撫でられ、耳に馴染む鈴の鳴るような声が響いた。
≪良かった。…もう、こっちに来てくれないと思っていたのよ…?≫
くすりと笑ったのが気配で分かった。
「………あなたは誰?」
彼女は一体誰なのだろう。そもそもここは何処なんだ。
そう思っても、微睡みの中にいるかのように頭がふわふわして思考が中断してしまって、それ以上は考えられなかった。
≪ふふっ…一度教えたのだけれど、貴方が忘れてしまったのなら私は何度だって教えるわ…。…私はね、―――と、言うのよ≫
香でも焚いているのか、いい香りがする。これきっと高価な物だ。
そんな事を考えてたのがいけなかったのだろうか。仕組まれたかのように、上手い具合に肝心な名前だけ聞こえなかった。
≪私は想いのカケラ。あなた達の強い想いが、私を生んだのよ≫
いや、何の話しだ。
≪大丈夫よ。…だってあなたは一度、私を呼んでいるのだから…≫
そう言って優しく微笑んだ彼女の顔は、知らない筈なのにどこか見覚えがあった。
≪もう少し寝かせてあげたかったけれど、もうすぐ目覚める時よ≫
その言葉の直後、身体の底から力が溢れてくる感覚がして僕の意識は朦朧とし始めた。
ああ、もう駄目だ眠い。だけど、そこの人、僕は―――――――。
海の底で眠りたい
誰にも起こされないように。見つからないように。
ただひたすら、静かに眠っていたかったんだよ。
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