僕らの終焉紀行 | ナノ

天使と悪魔と僕






ウルキオラと名乗った人が僕の前に現れてから、随分と時間が経ったような感じがする。気がつけば夏休みにも入っていて、あれ以来僕は何事もなく平穏な日常を送っている。相変わらず一護と連絡は取れないし、喜助さんも取り込み中のようだし。

…ああ、でも一つだけちょっと変わったことはあるな。
それは、

「――――こんばんは、ウルキオラさん」

「…………ああ」

あの日以来、気がつけばウルキオラさんは毎晩同じ時間にやってくる。それはただの様子見といったように、ベランダにいる僕をただ見ているだけなんだけど。

「……………」

それでも、こう毎日顔を見てると雰囲気とかでなんとなく今の調子とかが分かるようになった気がする。まあ、ウルキオラさんの場合あまり表情が変わらない分、雰囲気とかが分かりやすいのかもしれないけど。

「…そういえば、ウルキオラさんの眼って綺麗だよね」

流石に無言で見つめ合うのはキツいから、とりあえず言葉のキャッチボール。

「………………」

……だからどうした的な視線が凄く痛い。残念、これは失敗か。
………、………ああもう、普段ならラジオでも適当に聞いて時間を過ごすのに、どうして今日に限ってラジオが壊れるんだろう。本当、つくづく自分は運が悪い男だと思う。
仕方無い。気を取り直してもう一度再チャレンジ。

「ウルキオラさんは、何でいつも来るんですか?」

「お前に興味がわいたからだ」

結果は無言よりマシだけど、なんとも返答しずらい返事が返ってきた。

「へ、へぇー」

くっそ、これじゃあ会話が続かないじゃないか。
…というか、そもそもどうして僕は他人との会話にこんなに頑張ってるんだ?
他人の行動に一々口出しして理由なんか求める必要ないだろう。我関せずの姿勢はどうした自分。
そう思いつつも、口は違う生き物みたいに動き続ける。

「ウルキオラさん、ずっと外で長袖って熱くないですか?冷たいお茶くらいは出すから、もし良かったら上がって下さい」

「…………ああ」

少し考えるように間を空け、少しだけウルキオラさんは頷いた。




  * * * *




どうぞ、と言って冷たいお茶を差し出す。ちなみに緑茶だ。
家に上げたはいいけど、話す事もないのに結局自分は何がしたかったのだろう。数分前の自分に言ってやりたい。

「………一人暮らしか」

一人悶々としていたら、ウルキオラさんが家に入って初めて言葉を発した。

「…一人暮らしかと、聞いている」

突然だったせいか、反応が遅れてしまった。

「え?あぁ、うん。一応ね」

間違いはない。今でも喜助さんの所には行くし、僕にとってあそこは実家と言えるから。
でもやっぱり、当たり前だけど一応、というのに疑問を抱いたようで、ちらと僕を見たけれど、ウルキオラさんはそれ以上は何も聞いて来なかった。

「……お前は、何も聞かないのか」

人間、と何回かコップに口を付けた後、またもやウルキオラさんが突然聞いてきた。

「お前は俺の質問に一つ答えた。だから、次はお前が俺に何か質問すればいい」

答えられる範囲内に限られるがな、と少し呆けていた僕に、無言でコップを突き出した。…もしかして、おかわり?

「…うーん、じゃあさ、それ止めない?」

再びお茶を注いだコップを手渡して、控えめに笑う。

「その人間とか、お前とか。特に質問は無いからさ、それでいいかな?」

少し驚いたような表情をしたあと、薄く笑いよく通る声で呟くように言った。

「――――――識」





  * * * *




「――――――識」

『――――――識』

僕の名を呼ぶウルキオラさんが、記憶の中の誰かと被る。でも、誰なのかが分からない。
そもそも呼んでる名前は僕のものなのか、と疑う程に声が、重さが違った。
それはたった一言なのに、慈しむような深い愛情が篭められている。それも、愛する恋人に向けるような。
僕の知る限り僕をそんな風に呼ぶ人間はいないし、それ以前に僕を呼び捨てにする人は相当少ない。一護に一護パパ、たつきちゃん、あとは不本意だけどあの転入生…ルキアちゃん。そんくらいじゃないかな。喜助さんもあんまり呼び捨てしないし。
………それならば、あれは一体何なんだろう。

「――――識!!」

そう考えていたら、突然肩を強く掴まれ揺さぶられた。

「どうかしたのか」

「え、あーごめん、少し考え事してたみたい」

そうか、と言って立ち上がったウルキオラは、また来ると一言言い、一瞬で消えた。













天使と悪魔と僕













記憶は誰の物?天使か悪魔か、僕の名を呼ぶのはどっち?

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