僕らの終焉紀行 | ナノ
詐欺師の正義
最近一護の様子がおかしいと思ったら、隣りのクラスに転校生がやってきた。水色君の話しによれば相当な美人らしい。
どんな子か見に行くついでに久しぶりに一護とでも帰ろうかな。
「一護、今日帰れる?」
そう言いながらがらがらと戸を開ければ、一護の代わりに見知らぬ少女がいた。
「…あれ、そこの君一護の行方知らない?」
もしかしたら、僕の声にくるりと振り向いた見知らぬ少女が、噂の転校生なのかもしれない。そう思う程、彼女は結構な美人だった。
「む…もしや、お主が##NAME2##か?」
質問に質問で返すなよ。
それに##NAME2##じゃなくて識だから。
「…そうだよ。もしかして、君が転校生?」
一瞬イラっとしたものの、すぐに万人受けする笑顔を浮かべて答える。
「うむ。お主のことは一護から聞いているぞ!」
何を言ったんだ一護。
「そう。それで、その一護は今――――」
「それでは帰るぞ##NAME2##!一護から共に帰るよう頼まれているのでな!」
………いい加減にしてくれ。
結局その日は流されるまま、例の少女と一緒に帰った。もちろん後から一護に抗議の電話をしたけど、一護曰く、詳しくは話せないけどいつか話す、らしい。何も考えずに電話しただけだったのに、実は結構複雑で面倒そうな話しだったようだ。
「……だから面倒事は、嫌いだよ」
ベッドで横になったまま、天井に向かって呟く。
周りで面倒事が起きたのなら、のらりくらりと躱せばいい。いつものように。傍観者に徹すればいい。それが、一番僕に向いた生き方なのだから。
「ちゃんと自分の身は守りなよ、一護」
関わらせたくないのなら、自ら関わる必要もないだろう。
眺めていた携帯の通話履歴に向かって呟き、部屋の明かりを消してそのまま眠りについた。
* * * *
「…………んー…?」
夜中、お腹がすいたのか目が覚めてしまった。
まあ夕飯を食べてないから、当たり前といえば当たり前か。
思い立ったら即行動、という性格でもないけど、冷蔵庫の中は空っぽだろうからジャケットを羽織り財布を持って家を出た。
「とりあえず今日はもうコンビニ弁当でいいかな」
そう呟いて常に中身がスカスカの薄っぺらい財布を見る。
いつも金欠、という訳じゃないけれど。バイト代はすぐに貯金するから手持ちは食費代を抜いたら、基本的に一ヶ月三千円以内だ。それにそもそも、お金はあまり持ち出さないようにしてる。
「サンドイッチでいいかな」
そう怪しまれない程度に呟いて、ふと左の道を見たら、今日の転校生が見覚えのあるでかい何かと対峙していた。
「あれ………」
それはあきらかに面倒そうな、普段の僕ならそのまま見て見ぬふりをしてコンビニに向かうようなことだったのに、
「っ、何やってんだ、馬鹿!」
「なっ…馬鹿とは、」
「いいから逃げるよ!!」
未だに制服のままの転校生の手を掴み、昔からよく見る(しかも何故か追いかけられる。いつも撒くけどね)馬鹿でかい変な生物から全力で逃げた。
「私のことはいいから、お前は早く逃げ」
「ないよ!!」
僕に引きずられる形で走る転校生が全部言い終える前に、否定の言葉を言う。
「少なくともあんたは、最近一護の様子がおかしい原因を知ってるだろ?」
だから、死なれる訳にはいかないんだよ。
「お前…」
追いかけていた変な生物は無事に撒けたのか、それとも早々と諦めたのか、後ろを見てももう何もいなくて、ずっと走るのも疲れるから足を止めたら目の前には見慣れた小さな病院があった。
「ここまでくれば、もう大丈夫だね」
息を整えて、にこりと穏やかに笑う。
「あ、ああ…助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
くすりと小さく笑い、でも、と続ける。
「勘違いしないでね。さっき言った通り、僕は友人の異変を知る君を友人の為に死なせる訳にはいかなかった。そして僕の平穏を守るためにも君には生きてもらわなきゃいけない。だから、僕が動いてその結果君が助かった。ただそれだけのことだよ」
つまり、君を助けたかった訳じゃない。今日知ったばかりの人を助ける程、僕は優しく出来た人間じゃないのだから。
普段より饒舌で、変わらない笑みをたたえたままの僕に何か感じたのか、軽く身を震わせ怯えた素振りを見せたあと転校生は、僕の予想外のことを言った。
「それでもお前は私を助けてくれただろう」
だから、ありがとう。
「………そう」
予想外の切り返しに少し驚いたけど、また薄く笑って別れを告げた。
とりあえず、その後は家に帰るのも面倒だったから浦原商店に押しかけて(時間帯なんて気にしない)、さっきあった事を喜助さんに言ってみた。そしたら「そうっすかぁ」と言って、嬉しそうに笑いながら髪をわしゃわしゃとかき回された。
詐欺師の正義
何故助けたのかと問われれば、先程言った答えしか出てこない。
けれど、彼女がいなくなったら日常が変わるのかと問われれば、答えはイエスにはならなかった。
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