マキリの幻蝶 | ナノ
マキリの幻蝶 / Fate/Another zero
02

第四次聖杯戦争、その終盤。自身のサーヴァントがセイバーの剣に貫かれたことを確認し、深夜は雁夜の敗退を蟲を通じて祖父に報告した。蟲から意識を切り離し、雁夜の監視へ付かせる。

小聖杯の人形から、その黄金の輝きが出現するのを深夜は使い魔の蟲からリアルタイムで見ていた。そして、黒く澱んだ泥が溢れる様子も。使い魔越しに視た光景に瞠目し、眼に青い燐光を散らせた。上階の異変に気づいたセイバーが、探るように天井を睨んでいる。直後、轟音と共に天井に穴が開いた。咄嗟に逃げようと魔力を回した体は僅かに動いたのち、諦めたようにその魔力を散らしていく。分割し並列化させた思考と妖精眼による擬似的な未来視は、どうあがいても死を告げていた。その敏捷さで退避したセイバーは、見ているこちらが哀れに思うほど悲壮な表情で深夜を見ている。
深夜が最後に見たのは、眼前に迫る黒泥と、常の狂気を潜め自身に手を伸ばす消滅間際のサーヴァントだった。

「――!!」

こうして、間桐深夜の聖杯戦争は幕を閉じた。


――第四次聖杯戦争
間桐深夜――聖杯の泥を浴びた後、消失。


・・・


止まぬ吹雪と、荘厳な城。
ただ無意に繰り返される日々を見た。
同じ理想を語る男を見た。
男と共に見た世界は醜く、けれど美しく尊かった。
日々死へと歩む体ではあったが、それに不満はなかった。
むしろ、彼女にとってはその旅路こそが繰り返すことのない意味ある日々だったのだろう。
すり潰さんと迫る岩に至極満足そうな笑みを浮かべた彼女は、終ぞ悲痛な面持ちで自身を看取る男に気付かなかった。
気付いたとしても、きっと彼女には分からない。処理が出来ない。それに心が付随するのは、彼女からもっと後の機体になってからなのだから。
黒い礼装を身にまとった女がこちらを見ている。その腕には黒ずんだ赤子が抱かれていた。

「――根源に至り全ての悪を根絶する、第三魔法の具現を」
「――この手は星々の果てにまで届くであろう」
「――たとえ、人類全てを呪い殺してでも」

呪いの言葉は泥となり足元を染めていく。手にした赤子がどくりと脈打ち、鼓動が空間に広がっていく。
だが、その奥で、ともすれば聞き逃してしまいそうなほど微かに、嘆きの声が聞こえていた。

――同胞はすでに亡く、仇敵は理想を抱えたまま魂ごと朽ち、この身はもはや泥に塗れ汚染されている。

だから、呼ばれたのか。自身の使命を思い出させるために。深夜は静かに、黒い女へと近づいた。

「黄金の聖女。聖杯の基盤として消えた、マキリが愛した天の杯」

耳に馴染む懐かしい響きに、黒い女の呪詛が止まる。
虚ろな赤い瞳を深夜は見たことがなかったが、それは遠い記憶に残るよく知っているものだった。作られた時から深夜に宿る、隙間風のような寂寥感。

「あなたの犠牲に心を薪にした男がいた。妄執の火を灯し、その面影を偲ぶために生き存え、ついにはかつての理想すら焚べてしまったけれど」

アインツベルンの聖杯は全て彼女の後継機である。その面影を強く残した人形達が同じように聖杯の露へと消える様を、男は魂をすり減らしながら見続けてきた。これからも、生にしがみ付く限りその姿を看取るのだろう。
しかし、その燃えて灰になった理想から芽吹いたものこそ。

「――汝は、」

愛した人の似姿を二度と犠牲にさせないために作られたマキリの大聖杯が、間桐深夜の正体なのだから。
深夜の心臓には聖杯になる前の彼女の一部が埋め込まれ、回路として息づいている。だから深夜にも、今まで聖杯として消えたホムンクルスの女達の嘆きが聞こえていた。
黒い女の瞳に、わずかにかつての理知的な光が灯る。それに背を向け、深夜は背後に開かれた扉へ歩みを向けた。



「END ?? 杯に落ちた繭」




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