マキリの幻蝶 | ナノ
マキリの幻蝶 / マキリの娘とねじれた世界
0-2



 深夜は周りに倣い近くの少年に手を貸しながら歩いた。広場のような場所に着いた所で、先導していた青年が振り返る。
 寮長を名乗ったその青年は説明を始め、隣にいた補佐らしき人物は地図を配っていた。深夜は地図を受け取ると、説明を聞きながらそれを記憶する。
 聞いたことのない土地、聞いたことのないシステム。異国なのは間違いない。並行世界にでも繋がってしまったのだろう。
 いや、あまりにも記憶にある常識、環境と異なるから、この場合異世界だろうか。
 ここが教育機関であることは間違いないようで、早急な情報収集をすべく図書館へ向かう段取りを考える。
「ーーでは、これにて解散とする。各自、明日の始業には遅れないように」
 談話室と呼ばれた巨大水槽に囲まれた部屋に残る者もいれば、割り振られた部屋へ向かう者もいる。そこに混ざり、早々に寮から立ち去ろうとする。顔色が悪いと呼び止められたくらいで、咎められることもない。
「少し外を見たくて」
「それはそれは、お気をつけて」
 長身の男を通り過ぎて再び鏡を通る。硬い石畳を踏み鳴らすと、ようやく地に足が付いたような安心感が胸に広がった。来た道を逆に進むように、鏡宿と呼ばれる建物を出る。
 外は既に薄暗く、夜空を遮る街灯の光が星々の代わりにゆらめいている。
 暫く道なりに歩むと、どことなく見覚えのある銅像が立ち並ぶ通りに出た。おそらく寮長と呼ばれる男の話にも出た「グレートセブン」という偉人達だろう。地図の通りなら、奥に見える本城の手前に建っているのが図書館の筈だ。
「おや、新入生が何故こんなところに? 今は寮別に新入生ガイダンスを行なっている筈ですが」
 背後から突然かけられた声に回路が自動で開く。素早く、けれど優雅な動作で振り向いた深夜は相手を視認すると軽く礼を執る。
 棺の間と鏡の礼装が置かれていた広間の男だ。男は満足気に頷くと杖を一つ打ちつけた。
「もう夜も更けています。消灯の規則はありませんが、寮から抜け出してどこに?」
「少し、調べ物がしたくて」
「まァ、素晴らしい! 勤勉で結構! ですが、初日くらいゆっくりお休みなさい。明日からは毎日が学びなのですから。……貴方、マジフォーンは持ってないのですか?」
 マジフォーンとは? 首を傾げた深夜に男は「貴方出身は田舎ですか? それとも妖精郷?」と同じく首を傾げた。


20220827

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