マキリの幻蝶 / Fate/Another zero
01-1
――貴方の命が続くことを、その果てに美しく翅を広げる日を迎えることを、私は願っています。
深夜が帰りの遅い桜の迎えに久方ぶりに外へ出たところ、金の髪と若葉のような碧眼の少女に腕を掴まれた。小さな口からか細い声で漏れ出たその単語に、深夜は僅かに瞠目した。
深夜の記憶に今もなお鮮烈に残る、たった一つの思い出。瀕死の怪我を負った深夜を庇い、その霊核で以って命を繋がせてみせたかつてのサーヴァント。深夜と重ねて見ていたと、神に懺悔するかのように告白して消えていった男の想い人の名前。
思い出に引きずられるようにして、深夜の記憶が蘇っていく。あの時の深夜には炎と煙でよく見えなかったが、蟲を通して視たのは目の前の彼女と同じ、金髪と緑の瞳だった。
セイバーの唇は何事か言おうと迷うように震えている。腕を掴んだ手をそっと包むと、申し訳なさげに手が離された。
「彼も、同じことを言っていた」
「え…?」
遠くからセイバーと呼ぶ声が聞こえる。桜が通っている衛宮の後継者の声だった。
「私は貴方の王妃ではない。人違いですよ」
躊躇いがちに伸ばされた腕から逃れるように、生徒の人波に身を投げる。そうしてしまえば、もう眩い黄金は追っては来なかった。
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