マキリの幻蝶 | ナノ
マキリの幻蝶 / Fate/fall butterfly
interlude V




interludeV


「わたし以外にも聖杯として機能してるヤツがいたのね。気づいた時にはキャスターとランサーを取られてて、引き寄せる力もあっちの方が強くなっていた。ま、当然よね。傍に大聖杯の紛い物まで揃ってたんだもの。だからサーヴァントは全部そいつに取られたわ。目の前で消滅したアーチャー以外はね」
「大聖杯の、紛い物……?」
「英霊を呼び、マスターの選定を行う聖杯戦争のシステムのこと。わたしは確かに聖杯(うつわ)だけど、小聖杯(わたし)が集めた英霊の魂の送り先は大聖杯なの。集まった魔力を使ってそこから世界の外へ孔を開けて奇跡を起こす。ざっくり言うと、それが聖杯戦争の仕組み。本来、聖杯達に人間の人格は走らない。喜怒哀楽といった感情もね。人間として機能しながらなんて余裕はないし、そもそも必要はないもの。特に炉心なんてどれほどの魔術師であっても術式として活用するには人のままでは回路が足りないから」
 故に紛い物。完成された杯でもなく、もはや人とも呼べない。そう告げるイリヤスフィールは、イリヤのものではない記憶としてもう一つの大聖杯のことを知っていた。母であるアイリスフィール、そして切嗣と対峙した第四次の生還者(マスター)の一人。
 夜の闇に人魂のように浮かぶ青い翅を思い出す。性質だけでなく見目も醜悪な蟲を纏う老人とは異なり、美しく装い人を惑わす害虫。見た目でそうとわかりにくい点で臓硯よりもより質が悪かった。
 そう、アインツベルンの技術を盗み模倣するという点で、マキリは害虫そのものだ。たとえかつて同じ目的地を目指した同胞だったとしても、その時代を知らない当代のユーブスタクハイトにとっては目障りな羽虫で、一族の恥である。
「マキリは蟲使いだし、人格を切り刻んで使い魔に分散させて、空いたリソースで演算をしているんじゃないかしら。苦痛の割に得るものがないから、余程の物好きしか手を出さないわ。だって、自分の自我を細かに刻んで蟲に落とすんですもの。余程我が強いか、人として欠けているかのどちらかね」
 だからきっと間桐深夜は後者なのだろう。同胞達の記憶の中で、イリヤスフィールはかつての臓硯の姿を知っている。臓硯と名乗る前、もう少し違った音で呼んでいた頃のことだ。そこから零落れていく様も、その苦痛も。ユスティーツァと後継機達の目を通し、記録として知っている。
 彼女は確かに間桐が産んだ、マキリの天才だ。蟲使いとして、蟲に身を蝕ませる方法を取る間桐にとって、彼女ほど優れた器は二度と現れないだろう。
 だからこそ、イリヤスフィールは間桐深夜を一番に警戒している。
「話がずれたけど、そうね。アインツベルンとマキリで違いがあるとすれば、それは機能の切り替えを自分の意志でできるかどうか、かしら。わたしは純正の人間じゃないからできるけど、あの子達は、特にサクラは人の身で、不完全な黒い聖杯だから意志による決定ができない。切り替えに拒否権がないのよ」
 善悪も関係ない。神父のように歪んでいても良心があるわけでもない。現時点での聖杯への祈りが不明なまま、また今回も聖杯戦争に参加している。きっと名目はマスターの補助だろう。
「だからね、シロウ。間桐深夜にも気をつけて。あの女は絶対にサクラを止めないから」
 何を考えているか分からない。けれど、その目は明確に聖杯を手にすることへの執着に満ちているのを、イリヤスフィールは知っている。



 interlude out



20220308

- 16 -

|
[戻る]




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -