マキリの幻蝶 | ナノ
マキリの幻蝶 / Fate/fall butterfly
interlude U




セーブ■■から続けますか?
 ーーはい。


■■前 蟲■での選択
■■前 ■■の選択

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九日目の選択
 桜を迎えに…
  行く
  行かない ←



interlude U


 間桐家の心臓たる地下の蟲蔵。そこでは蟲の飼育の他、間桐の実質的な当主である臓硯による後継者への仕込みが行われている。
 かつかつと石畳を叩く杖の音が響く。
「ーー深夜よ」
 魔術回路は美しい文様を描きながら緑の闇の中で淡く光を放っている。これは臓硯が手ずから調整し、胎盤の頃から育て上げた最高傑作だ。娘の父親の名から取った同じ文字は、娘にはよく似合っていた。深い夜の粘りつくような闇がよく似合う。
 蟲がざわめく音は反響し、粘膜を打つ水音は絶えず暗闇に木霊している。生を貪る蟲のプールの中、湿り気を帯びた空気の奥で不意に宝石のような青い光が瞬いた。
 青の中で赤い稲妻が閃いた瞬間、蠢く蟲達が一斉に黒く染まる。
 つい先ほどまで蟲だったもの達の黒い壁が海中の鰯の群れのように形を変える。指先一つで翅となり、剣となり、肉の壁となる。深夜の魔力が流れた蟲は全て深夜の武器となっていた。その奥には、白い裸体から魔力で編まれた黒い甲冑を纏った、女騎士の出で立ちへと変わった深夜が悠然と立っている。魔術的な概念礼装のようで、攻撃を加える度に翅刃虫の針と牙は折れ触れた先から深夜の魔力で黒く染め上げられていった。
「仮想英霊(デミ・サーヴァント)化は進んでおるか」
「……はい。恙なく」
 間桐深夜は英霊の力を有している。
 前回の聖杯戦争の折に聖杯の泥と接触した深夜はそこで命を落とす運命にあった。けれどそれを己がサーヴァントによって覆された。
 余程、少女が泥に汚染されることに耐えられなかったのだろう。霊核の譲渡という、協会に知られれば封印指定が免れない方法だった。一度墨が混ざった水は二度と元の綺麗な水には戻らない。けれど、水を全て捨て入れ替えるというなら、また話は変わってくる。
 回収した深夜の状態に、臓硯は心当たりがあった。元は降霊科や天体科で水面下で考案されてきて、その道徳観倫理観の欠如から握り潰され禁忌とされてきた魔術実験だ。設計された人体に聖遺物を埋め込み召喚と同時に受肉を試みるその実験は一度も成功した例がない。その非道な実験に答える英霊がいないから。いたとしても自害して強制退去となるだろう。けれどそれ以上に、与えられる英霊の力に器となる人間が耐えられなかったからだ。それは短命の代わりに膨大な魔術回路を与えられたホムンクルスでも変わらない。膨大な魔力を生むそれは人の身には毒となる。
 けれど深夜は生きている。大聖杯の一部、正確には大聖杯の基盤となる前の人形の髪の一筋を心臓に縫い込まれるという形で有していて、それが魔力の受け皿となったのだろうというのが臓硯の見立てだ。
 聖杯の欠片を埋めいつか杯に至るであろう孫に、英霊の力を有した娘。この二つと杯を満たす魔力さえ揃えば、間桐の力だけで聖杯は顕現する。魔術師の後継者としての深夜は今の間桐にとっては最上級である。けれど、その胎から子を遺せないと分かりきっている以上、深夜はただの駒に過ぎなかった。
「そのまま鍛錬を続けよ。明日からは亡霊と魔獣も放つ」
 次回の聖杯戦争はきっと六十年の周期を待たない。四騎の英霊の魂だけで小聖杯は顕現し、中身を多少零した程度で儀式は閉じた。全て不完全なままで。
 ーーもうすぐ手が届く。
 一体何に。何故手を伸ばすのか。そう問いを投げかける存在はもういない。臓硯は呵々、と嗤うと、願望の成就に確実に近づいていることを確信しながら、石畳を上り去っていった。



 interlude out

20220301

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