マキリの幻蝶 | ナノ
マキリの幻蝶 / マキリの娘とねじれた世界
小咄01

 監督生には愛してやまないものがあった。かつての世界にあったとある運命と聖杯の物語、それに登場する一人のヒロインの姉。
 正確にはヒロインの叔母だが、本当は従姉という実に複雑な家庭環境にある女性だった。物語は3つのエンディングがあり、彼女が登場するのは物語の真相が語られる一番最後に解放されるルートである。
 五百年の後悔と妄執が生んだもう一つの大聖杯。抱いた本人ですら忘れ去ったそれを拾い上げた、間桐最期の魔術師。肉体が滅びてもなお、魂に刻まれた意思だけで成し遂げてみせた不死蝶。後に配信されたソーシャルゲームで描かれた彼女の礼装の名は「マキリの幻蝶」。即死無効と三ターン毎に相手のチャージ減と言う神性能。当然重ねたし詳細情報を読んで泣いた。泣くに決まっている。「男が忘れた大願、そこに滲んだ僅かな後悔と悲嘆が生み落とした卵は蛹となり、変生し、ついに天へ至る門へと羽ばたいた。」
 そうだ。監督生は知っている。彼女はとうに、自分の願いが偽物だと気づいていた。それでもなおその願いを果たしたいと祈った。あの日女が捧げた祈りは本物だと、男が抱いた悲しみは真実だと知っているから。そうして彼女は成し遂げた。肉体を失っても、記憶が剥がれ落ちても、懸命にその翅を広げて門へと羽ばたいた。男が愛した人形の写し身を、もう二度と失わせないために。

 彼女の物語はあのもう一つのハッピーエンドで終わっている。限りなく完璧に近いエンドロール。だが、それはそれとして監督生は何より十年前の前日譚が好きだった。願いが芽吹く前、まだ人非ざるものだった彼女をこの世に留め、人へと戻した運命の出会い。初恋の女性の娘を救いたかった男が呼んだ、王妃によく似た少女を救いたかった狂戦士の祈り。そして円卓が反応するくらいにはギネヴィア顔(ただしレイプ目)らしいという新情報。
 その娘は泣きも笑いもせず、ただ王妃によく似た貴い面影に虚な昏い瞳が浮かんでいるのが、蟲の隙間から見えた。狂化した精神に届いた愛した女とよく似た顔。出会いからして重い。だがそれがいい。だってこれは聖杯と英霊、そして運命の物語だから。

「マキリの蝶…」

 しかしどうして、その彼女がここにいるのだろう。ここはコラボ時空だろうか。
 何の覚悟もないままに最推しと遭遇してしまった監督生の口から飛び出たのは、ただいつも呼んでいた推しの呼称だった。
 それに反応した彼女が驚いたように振り向く。ああ、驚き顔のスチル最高。無表情がデフォの推しの御尊顔を眩しい顔で見上げる監督生は、ようやく違和感に気付いた。目の前の推し、顔はいつもの麗しの姫君だがどう見ても体は男だった。コラボなら擬似鯖か?監督生は霊基には1騎だが心当たりがあった。消滅間際、泥に侵された彼女の生を願い霊核を押し付けたお前ですバサスロット。

「君は…」
「アッ。あなたに恋い焦がれていたただの一般人です」

 監督生は弾かれたようにさっとお辞儀をし、逃げるように駆け出した。




20211208

この後監督生は唯一の同郷として可愛がられるが、深海の商人で選択ミスってアズールオバブロ、からの不屈寮寮長の魔力吸い上げ昏睡謹慎処分を受けて復帰後のお疲れ様会で本人からの暴露で阿鼻叫喚となる。まさか1年いるのに異世界産て言ってないとは思ってなかった。
その後監督生の記憶から再現したUBWとHF、zero鑑賞会が始まり阿鼻叫喚。
運命と出会い、祈りを成就させた末の異世界トリップ。故に中身は25歳女性。


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