マキリの幻蝶 | ナノ
マキリの幻蝶 / マキリの娘と呪いの世界
ミミナナと

少女達は夢想する。大好きな二人に囲まれて、大好きな二人が寄り添って歩く姿を。
あの村から保護されて以来、少女達は夏油傑の娘として引き取られた。いつもより仕事を抑えているとは言え、絶えず任務が押し付けられる夏油に変わり、任務に同行し共に保護した関係からか深夜がよく世話をしていた。
今も体力育成も兼ねて夏油の使役する呪霊とのかけっこをしていた少女達は、遠くに見慣れた黒いお団子頭を見つけ喜色を浮かべたまま走り出した。慌てた呪霊の手をすり抜け、一目散に駆けていく。

「夏油様!!」

駆け寄る少女達に微笑みながら、夏油はそっと人差し指を口元に当てた。少女達が覗き込むと、母のように慕っている深夜が柔らかな籐の長椅子に腰掛けた夏油の隣で眠っていた。

「深夜様、寝ちゃってる」

少女達は二人とも大好きであったが、特に夏油によく懐いた菜々子と反対に、美々子は深夜へとよく懐いていた。
眠る深夜を熱心に眺めていた美々子が、つられたようにあくびをし、菜々子も大きく口を開けた。

「ふふ、私もなんだか眠くなってきたな。二人とも、天気もいいし少しお昼寝しようか」

夏油が長椅子をつなげ、一つの大きなベッドを作った。そのまま大きな手に撫でられ、四人で川の字で横になる。深夜はまだ眠ったままだ。大きな長い腕は、二人を易々と超え眠る深夜にかかる前髪を払った。
――夏油様はきっと、深夜様のことが好きなんだろう。
それは幼い二人にもわかるほどの優しい眼差しだった。
思わずじっと見ている少女達に夏油は苦笑を一つこぼし、薄いタオルケットでその視線を遮った。きゃらきゃらと笑う少女達の声が空に吸い込まれていく、優しくて暖かな、懐かしい情景。それは少女達にとっての、幸福のカタチだった。

だから少女達は夢想する。大好きな人の隣に、再び大好きな人が戻ってくることを。




  存在しない
――優しかった 記憶



20211014

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