遍く照らす、 | ナノ

遍く照らす、 / 禍群の唄
03



 虫がきちきちと喚くような不快な音に目を覚ます。
 たくさんの小さな小さな虫が地を這い己の身体を蝕んでいる、そんな音だ。
 早く起きて、払い除けないと。
 ■ ■ ■を蝕む前に。
 ■ ■ ■を害する前に。


 ◇

 数多の楔がウツシに打ち込まれ、翔び上がった身体は血でぬかるんだ灰の地面へと叩き落とされた。
「が、はっ……」
 霜と灰が混ざる凍りついた地面にぱたぱたと血が垂れる。
 もはや手の施しようがないことは分かりきっていた。
 ウツシは教官職を得ていても、狩場に身を置き自然と共に生きる狩人である。己に残された命の限りは正確に把握している。
「……さよならだ」
 潰れた耳がぼんやりとした音を拾う。レイピアが振り上げられた気配を感じ取るも、立ち上がる体力も足も残っていない。身を蝕む毒を、深傷を、歯に仕込んだ薬で騙し騙しやり過ごしてきたが、これで本当に限界だった。
 せめてもの救いはギルドナイト達も深手を負い、数人は既に息もないことだろう。彼らの消耗からすると、アマネへその刃は届かない。
「安心しろ。お前が仕損じた分はオレ達が必ず取り戻す」
 首を覆う帷子が外され、刃が振り下ろされ、そしてーー天を裂く、龍の咆哮が響いた。
 呼応するように大地が揺れる。
 この世の生き物とは思えない地獄の底から響く怨嗟の叫びは、足下から轟くようであり、背後から囁かれるような、そんな不思議な音だった。けれど、それをまともに聞いた、ウツシを取り囲んでいた、咆哮を聞いた者たちが倒れていく。
 ある者は耳から血を流し。
 ある者は衝撃波で目が潰れ。
 ある者は正気を失ったように突然叫び、自らに刃を突き立てた。
 それは周囲の生物も例外なく、モンスターも動物も昆虫も、皆狂ったように死に倒れていく。
 咆哮は空気を伝い、世界中へと広がっていく。
 遠く離れた砂漠の街へ、絶海の孤島の港町へ、雲より高い高山の王国へ。
 地下水脈を伝い、海を伝い、灰を伝い、増幅した音が響き渡る。世界に響くその鳴き声(うた)は、少しずつ生き物を侵し崩壊させていった。


20230506

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