遍く照らす、 | ナノ

遍く照らす、 / 禍群の唄
01



 暗く沈む夜の中を祓桜が舞う。
 竜避けの薬炎が昼夜問わず焚かれ、夜も仄明るいカムラの里は変わりなく餅をつく音、巫女の唄声が朗々と響いている。
 重罪人を出したとギルドから糾弾を受けても、ゴコクもフゲンもしなやかな柳のように飄々としていた。そも、続く災禍に里は長く孤立していたのだ。今更製鉄技術に目が眩んだギルドとどうこうなろうが、元に戻るだけ。
 それに、異変も直ぐに起きた。
 ウツシがアマネを連れ去ってから何度目かの夜を迎えて以降、夜が明けなくなったのだ。
 空は重く落ちてくるような鈍色のまま。雪のように灰が降り積もり、世界を薄く染めていく。
「大丈夫だろうか……」
 灰の空を見上げたフゲンが誰にでもなくそう呟いた。少女の苦しみを思えば、人のまま死なせてやるのが幸せだろうと思ったが、男にとっては違ったらしい。
 息子のように、次の里長に相応しいように育てた男ではあったが、根は寂しがりの泣き虫のままであったようだった。
「頑固なところはどう考えてもフゲンに似た。勘の良さはヒノエか」
 釣竿を揺らしながら現れたゴコクとハモンにフゲンは苦笑をこぼした。「ゴコク殿にもそう見えますか」「子は親に似るもんゲコ。いやでもね」
 かつてのように並んで、けれど澄んだ夜空ではなく濁った空を見上げる。
「ギルドナイトが追ってると古い知人から文があったゲコ。もはや里の手出しも出来ぬ、あとは蛙……神頼みゲコ」
「そやつらで捕まえられるのか? あれを?」
「この灰の中では難しいゲコねぇ」
「どうあれ、此処に残るしか道がない我らは、あやつらへの焔の加護を祈るしか無いだろう」
 次代を担う焔の灯火が消えた時、ウツシが彼女を選んだ時、里の行く末は既に決めていた。


20230505

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