遍く照らす、 | ナノ

遍く照らす、 / 火群の瞬き




アマネが消えてから、一つの季節が過ぎようとしていた。一年中桜の咲くカムラの里ではその変化は少なく、緩やかである。
変わらぬ安寧を見守る雷狼の面の男に、里の子供達が手を振った。それにぎこちない様子で応える男を、団子屋の長椅子から少年と詩人が見守る。

「ウツシ教官、最近急に元気になってきたわね。アマネさん見つかったの?」
「見つかってたら多分、もっと元気っすね」
「それもそうね。まだ傷心中みたいな雰囲気だもの」

ウツシが大怪我を負って戻ってからと言うもの、里は平和そのものだった。
そもそも怨虎竜が砦へと迷い込んで以降、カムラの里にモンスターの狂騒は迫っていない。近付く百竜夜行は全て、里近隣に近付く前に消失していたからだ。
時折、群れが消えても突き進んだモンスターが大社跡の付近に現れる程度の騒ぎ。その度にウツシはモンスターを狩りながら群れの跡を辿ったが、その観測地点に着く頃には、アマネが居たであろう痕跡だけが残り、その影も形も見えない。
消えた雷神龍も、百竜夜行を追い立てながら何処かを彷徨う風神龍も、どちらの行方も掴めないままに時だけが過ぎていた。
事態が急速に動き出したのは、そんな変わらぬ日のことだ。

いつもは人で賑わう集会場。その二階にある、ナカゴ達が店を開く座敷から更に奥へ進んだ広間で、フゲン達里の重鎮と集められた里守達は緊急の会合を開いていた。

「各地で百竜夜行に似た現象が起きている」
「ギルドの監視船からの報告によると、今のところ進路の上にカムラはないそうだ」
「しかしその群れのどれもが、乱入したマガイマガドの捕食により解体された」
「これが推測だが、今までの発生元、進路を書き記した地図だ。翡葉の砦から逃げ出した風神龍が次に地上に姿を見せたのはここで、雷神龍と最初に戦った直後がここになる」

ハモンの皺が刻まれた白い指先が、書き込みのされた地図の上を滑っていく。

「報告されたモンスターの目撃情報を元に地形、天候を考えると、風神龍が移動するのに合わせて放射状に広がるように群れを成したことが分かるゲコ」
「風神龍の威風による百竜夜行で間違いないな」
「ああ。風神龍はしばらく周囲を彷徨い、ある時からこの方角に向かって蛇行しながら進んでいる」

カムラ周辺の山々を、円を描くようにぐるりと指を動かした。そのまま大海が広がる方へと進んだかと思えば、再び止まり、辺りを丸くなぞる。

「この線を辿るとおそらく次の発生場所はこの付近だろう。そしてその先は……」

地図を見下ろしていた者達全員が、示し合わせたように顔を上げ、互いの顔を見合わせた。

「……龍宮砦跡」

遠雷の近付く音が、広間に轟いていた。



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