Un amour interdit
茉莉花のネックレスを渡す
二年になって、部活でも後輩が出来た。
背も伸びて、今では頭一つと少しだけ、小夜より目線が高くなったし、声も少しずつ低くなってきている。
俺が段々と男に成長していけば、勿論小夜だって同じように女に成長していく。それは生物学的に当たり前の事だけれど。
「小夜」
俺は、どうしても思ってしまうんだ。
「ちょっといいかい」
自分でも思ったより険しくなった声色に、小夜が吃驚したように振り向いた。
「精市…?」
「来て」
小夜の手首を掴んで空き教室まで走る。
「ま、待っ…!!」
簡単に折れてしまいそうなくらい、細い手首。でも決してがりがりというわけではなく、俺好みの柔らかさがある。
「精市っ…!!」
それに、抵抗しても簡単に無視できる力の差。双子なのに、性別が違うだけでこんなにも違う。身体も、そして心も。
「っはぁ…急に、どうしたの…?」
「…………、」
心配そうに見上げてくる、俺より少しだけ淡い色をした瞳。
俺はずっと怖くて仕方なかった。双子の妹に、恋愛感情を抱いていることが。普通ではあっちゃいけない事だからこそ、いつだってぎりぎりの所で自分にブレーキをかけていた。
ただ傍に、触れられる距離に居ることが出来ればそれで満足だったから。
「精市…?」
満足出来ていた、はずだったのに。
「…っ、俺はっ…!」
全部欲しい、だなんて。
「精市、」
ふわりと香る匂いに、抱き締められていると気がついた。
「小夜っ…」
どうしたらいいのかわからない。多分、もう元に戻れないくらい小夜を好きになってるんだと思う。
「…いいよ」
「え…?」
「精市になら、何されても構わない」
「小夜、…」
「私、精市のこと兄妹としてじゃなくて、一人の男として好きよ」
俺だって、同じだ。心の底から本当に、異性として愛してる。このまま自分だけのものにしてしまいたいくらいに。
「だから私、精市とならいいと思ってる」
「…俺は、自分が怖いよ」
髪を梳くように撫でられ、無意識に首筋に顔を埋めた。
「俺はね、小夜が思ってる以上に小夜のことを愛してるんだ」
それこそ好き過ぎて、どうしたらいいのかわからなくなってしまうくらいに。
今だって、上級生に呼び出されてたのを見て咄嗟に空き教室まで連れ出してきてしまったのだから。多分、嫉妬して不安になったのだろう。恋人同士の真似事をしていても、俺と小夜は恋人にはなれないから。
「…束縛、していいよ」
小夜が言った言葉に顔を上げる。
「いいのかい…?」
本当に、と聞くと、小夜は少しだけ微笑んで頷いた。
「俺、絶対重いよ」
「私は嫉妬深いけれど?」
「小夜からの嫉妬なら嬉しいな」
「私だって精市なら重くても嬉しいもの」
「…本当に、俺でいいの…?」
「うん…精市のこと、好きだから」
俺も好きだよ、と言うと嬉しそうに小夜は微笑んだ。
それを見て、それじゃあと、少しだけ距離を取る。
「…好きです。俺と、付き合って下さい」
喜んで、という小夜の声にごめんと心の中で謝った。
茉莉花のネックレスを渡す
(君しか愛せない俺でごめん)
茉莉花(ジャスミン)…あなたは私のもの