Un amour interdit
登校中のニゲラ
私も精市も、冬が好きだ。
熱いのが苦手というのもあるけれど、二人で寄り添っていても暖かいからと理由が出来る。
だから、寒い冬が好き。
「これも、来年で最後かなあ…」
恋人同士のように絡めた手をぎゅっと握り、精市が呟いた。
「梓は立海受かるだろうから、梓と三人で登校だし、高校に上がっても途中まで通学路同じだし」
二人っきりの時間が減っちゃうね、と言えば三人で登校は楽しみだけど素直に喜べない、とため息をついた精市に微苦笑する。
「梓だもの、すぐに友達と登校するようになるよ」
人懐っこい、私と精市の可愛い妹。
今年受験でもないのに、絶対に立海に行くと言って必死に勉強をしている。あの子、頭が良いのに成績とか気にしないせいで自分の学力に気付いていないから。
「それに、まだ一年もあるよ精市」
気が早いと言えばそうだったね、という返事と共に手が離れる。
「…人が増えたね」
その言葉に小さく頷く。
冷たい空気で急速に冷えていく手のひらをコートのポケットに入れた。
「…、…そんな顔するなよ、小夜」
何だか寂しそうだ、と言いながら苦笑いを浮かべ、頭を撫でてくる精市に気恥ずかしくなって顔を背けた。
「…別に、」
「ふふ、俺も同じだよ」
学校が近いからか、人の数もさっきより多くなってきている。
「……小夜」
なあに、と言おうとして、隣りの片割れを見た瞬間。
「―――…」
精市の顔が近づいて、掠めるようにして唇が重なった。
「っ、!!」
「ごちそうさま。…あれ、顔真っ赤だよ」
慌てて周囲の様子を窺う私を見て、精市が愉しげに笑う。
「な、な…!!」
「はは、耳まで赤くなってる」
キス一つで顔を赤くした私が相当面白かったのかお腹を抱えて笑う精市に、辞書の入った鞄で攻撃をした。
「わ、笑わないでよ!」
「くっ、ごめ…っふふ、」
「もう、精市!」
「も、大丈夫だよ。…ふふ、」
笑いの波が治まったのか、やっと落ち着いて来た。
「顔は、まだ赤いね」
精市の冷えた手が熱を持った頬を包む。
「ん…」
「…気持ちいい?」
声には出さず、小さく頷く。
ひんやりとした手が頬の熱を吸い取っていくのが気持ちいい。精市も冷えた手が暖まっていくのが気持ちいいのか、僅かに目を細めた。
「精市は手、冷たくない?」
頬を包む手に上からそっと触れると、案の定手は冷え切っている。
精市は温かいと呟いた後、俺が冷たい分、小夜が温かいんだね、とどこか嬉しそうに微笑んだ。
「精市が冷たすぎるのよ」
真冬になっても毎年手袋をしない上にカイロまで持たないから、酷いときは霜焼けが出来てしまう。
「それじゃあ…俺が冷えないように手、温めてよ」
小さく笑った精市は、私の手を握ったまま精市のコートのポケットに手を入れた。
「これなら二人とも冷えない」
それに、手だってつなげるだろ?そう言って、精市は私の手を強く握った。
登校中のニゲラ
(どうせ俺たちが双子だなんて同学年くらいしか知らないさ)
ニゲラ…密かな喜び