Un amour interdit
水面下のヒマラヤユキノシタ
「リハビリ、ですか」
投薬の効果が出てきたのか、徐々に回復に向かっているらしく精市はリハビリを勧められていた。
「…やります、リハビリ」
コートに立っている時のような目をして頷いた精市に、先生はリハビリの説明を始める。それを横目に見ながら、私は再び本に目を落とした。
「…精市」
ほんの数分か、十数分くらい経った頃だろうか。先生が部屋から出て、少しそわそわしている精市におめでとうと言う。
「ありがとう、小夜」
嬉しそうな精市に、私まで嬉しくなる。でもやっぱり、心の隅の方では黒い感情がぐるぐると蠢いていて。
「ふふ…私も頑張らなくちゃ」
嬉しい。羨ましい。精市が早く治ればいい。私の方が先に治療していたのに。
何でもないように笑っても、私の中の汚い私が浮かべた笑顔のすぐ下にいる。
「大会、俺も出れるかな」
穏やかに微笑む精市を見てると、余計に私が汚く思えて仕方ない。
「必ず、出れるよ」
嬉しいのに妬ましい。そんな風に思ってしまった自分が悔しくて、恥ずかしくて、私は精市から目を逸らした。
水面下のヒマラヤユキノシタ
(それはまるで)(薄く張った氷の上に立つ気分だった)
ヒマラヤユキノシタ…秘めた感情