Un amour interdit
クロガネモチより強く
「小夜、」
隣のベッドでぐっすりと眠る小夜の頬を撫でる。機材やら何やらでベッドの距離はかなり離れていて、普段はくっついて寝ているからか、少し寂しい。
「…眠れないの?」
不意に、小夜の目蓋が開いた。深い色をしたその瞳は、カーテンの隙間から射し込む月光できらきらと輝いている。
「うん…物寂しくてね」
綺麗だな、と思いながら小夜の近くにパイプ椅子を置いて其処に座ると小夜まで起き上がった。寝たままでいいよと言うと、自分も眠れなかったからと返ってきて。
「不謹慎だけど…こんなに長く精市といられるの、久しぶりだから嬉しくて」
照れたように目を逸らした小夜にそっと口づける。
「俺と、一緒だ」
そう言って、月明かりによるものでなく、薄らと張った涙の膜によって光る瞳の縁にもう一度口づけた。
「俺も、また小夜と一緒にいられるのが嬉しくて眠れなかったんだ」
微かに驚いたかのような表情をした小夜は一緒だねと嬉しそうに微笑んで、それにとくんと心臓が高鳴る。
微笑まれただけで早まる鼓動に、自分は恋する乙女かと笑ってしまう。
「…精市、顔が赤いよ」
風邪引いたの、と心配そうな表情で小夜が頬に触れた。久しぶりだからか、普段以上に心拍数が上がるのを感じる。
「ふふ、小夜が綺麗だから緊張してね」
なにそれ、と笑った小夜にふと、国語の教科書で読んだ竹取物語の最後が頭に浮かんだ。かぐや姫が月に帰ってしまう、あの場面。
今ならあの帝の気持ちが解らなくもない。小夜がかぐや姫だったら何が何でも月になんて返したくないと思う。俺だったら監禁も辞さない。いや、小夜はかぐや姫でも何でもないからいいんだけど。
でもそれだけ帝や他の男に想われていながら結局誰も選ばなかったかぐや姫もかぐや姫だよな。あんな無理難題押し付けて、気がないならちゃんと断るべきだ。帝だって臣下だけじゃなくて自分だってかぐや姫の盾になるなり何なりすればよかったのに。ああやっぱり帝の気持ちなんて解らない。背後から射し込む月明かりのせいかそんな事ばかりを考えてしまう。
「私は、何処にも行かないよ」
考えていた事が伝わったのだろうか。緩く笑んだ口元に自分のをそっと重ねて、抱きしめる。
「嫌がったって何処にも行かせてやらないから」
意地悪く笑った俺に小夜が呆れたような微苦笑を浮かべた。
クロガネモチより強く
(おやすみ、俺のお姫様)
クロガネモチ…執着