Un amour interdit | ナノ

Un amour interdit

緩やかな紫露草







「……あら、弦一郎くん」

天気が良いから、屋上で外を眺めていたら弦一郎くんがやってきた。

「精市はまだ来てないのか?」

「ふふ、今赤也くんとコンビニに入っていったから、当分来ないんじゃないかしら」

二人とも、大分打ち解けて仲良くなってるみたいだ。

「最近の精市は以前より丸くなったからな」

赤也も話しかけやすいのだろう、と言った弦一郎くんは珍しく嬉しそうに笑っている。

「赤也くん、中一で唯一のレギュラーだもの…普段は平気そうに見えても、きっと緊張してるだろうから少しでも緊張を解してあげないと」

部活ではいつも上級生に対して強気ではいるけれど、本当は人一倍繊細で些細な事でも傷ついてしまう。マネージャーをしてたから気がつけたことだ。

「…お前のおかげだな、小夜」

ふ、と笑った弦一郎くんに私も笑い返す。

「弦一郎くん…何か、嬉しい事でもあった?」

「?…何故分かった?」

「ふふ、弦一郎くん今日はよく笑うから」

そう言うと、弦一郎くんは照れたような表情をして後輩から指導を頼まれてな、と言った。

「数人で俺の所に来て、指導を頼むと言われたのだ」

鬼の副部長、なんてあだ名がついている程自分にも他者にも厳しい彼だけど、実はとても面倒見が良かったりする。一度懐に入ってしまえば意外といいお兄さんであることを、もしかしたらその後輩は分かったのかもしれない。何だかんだで小さい子好きだし。

「楽しかったのね」

「う、うむ…」

照れたように笑った弦一郎くんを微笑ましく思う。
全国三連覇を掲げるのはいいけれど、もう少し部員同士が仲良くてもいいんじゃないかと思っていたから、よかった。

「それで、あいつらなかなかにたまらんサーブを…」

嬉々として語る弦一郎の背後で屋上の扉が開く。それに気付かないくらい楽しかったのだろうけれど。
その後も楽しそうに後輩との交流を報告し続ける弦一郎くんの背後を、音もなく精市と赤也くんが忍び寄ってきた。
精市が唇に人差し指を当てて笑っているから、このまま黙っていよう。ごめんね弦一郎くん。部長命令っぽいです。

「実に有意義な時間でっ……?!!!」

精市に後ろから首筋に冷たい紙パックのジュースを当てられて、余程驚いたのか声も出ていない。

「あはは、俺より先に抜け駆けは許さないよ真田」

「小夜先輩お久しぶりっス!!」

「精市に赤也くん、いらっしゃい」

にこにこと精市が笑うと、弦一郎くんは途端に顔が青ざめていった。何だか面白いな。

「あれ、部長なんかさっき言ってたことと違っ…あ、いや何でもないっス、はい」

小夜先輩これお土産です、とコンビニの袋を二つ渡される。

「いちごオレとエクレアに…ジャンプとアイス?」

ジャンプとアイスはきっと精市だろう。アイスが雪見だいふくな辺り、私の好みを把握してる。というかそもそもジャンプは私が頼んだし。多分、精市の事だからどっちのが喜ばれるかとか言ったんじゃないかな。

「ありがとう赤也くん…いちごオレ、飲みたいと思ってたから」

そう言うと赤也くんは嬉しそうに笑って、俺と試合っスね!と精市に振り向いた。
やっぱり賭けでもしていたのか。

「しょうがないなあ、一試合だけだよ?」

うなだれる弦一郎くんを引き連れ近付いてくる精市は、何だかんだで嬉しそうだ。

「やったー!!」

なんだか大型犬を見ている気分になってきた。

「…ふふ、赤也くん雪見だいふく一つ食べる?」

「いいんスか?!」

いただきまーす、と赤也くんが一口でアイスを食べた直後、弦一郎くんの怒声が響く。それに精市が笑い、つられて私も笑って、赤也くんも引きずられるようにして笑った。














緩やかな紫露草














(こんなに楽しい気分になったのは)(いつぶりだろうか)





紫露草…ひとときの幸せ


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