Un amour interdit
金雀児を引き寄せて
「なあ小夜、頼むから少しは俺に頼って?」
頼れ。精市に言われた言葉が耳に響いた。私は十分頼っていたつもりだったのだけれど、精市はそうは思ってなかったのだろうか。
そもそも、頼るって、どうすればよかったのか。
「…それじゃあ、俺はそろそろ帰るよ」
時計を見ると、面会時間の終了時刻が迫っていた。
また来ると言った精市が荷物を持って立ち上がる。
「ぁ…」
待って、行かないで。
精市の後ろ姿が遠ざかっていくような気がして、裾を掴もうと無意識に伸ばした手は宙を切った。
精市が遊びに来て、帰るのは今日が初めてではないのに。何故か今日に限ってそれが嫌だと感じてしまう。
精市を帰したくない、なんて。
「、待って――――」
もう一度裾を掴もうとベッドから身を乗り出して手を伸ばす。
「――――せい…っ!!!」
裾を掴んだ瞬間目眩がして、ぐらりと身体が傾いた。
瞬間的に落ちると思って目を瞑ったものの、いつまで経っても冷たい床の感触はしてこない。
「本当、危なっかしいよね小夜って」
下から聞こえた声に目を開くと、困ったように微笑む精市がいて。頼れってこういう意味じゃないんだけど、と続けた精市に思わずごめんと謝る。
「謝らないで…小夜」
流石に精市の腰に馬乗りになったままはまずいと思って退こうとしたら、逆に腰を掴まれて動けなくなった。
「もしかして今、寂しかった?」
頬を撫でる手が顎を掴み、視線が逸らせない。
私が押し倒したような体勢だから、精市は自然と上目遣いで見上げてくる。
「俺の裾を掴もうとして、ベッドから落ちかけたんだろ?」
「……、」
不自然にならないように、目を逸らす。図星なのが少し悔しい。
「こんな事言ったら小夜は怒りそうだけど…ずっと不安だったから、嬉しいよ」
「…不安、だったの?」
驚いて精市を見る。それだけが頭に引っかかった。
「まあ、ね」
精市は困ったように頬をかいて微苦笑した。そんな素振りは見せなかったけれど、そもそも彼はからかってる時と本気の時の見分けが付きにくい時がたまにあるから。
「…私、精市の事頼ってるよ」
肩に顎を乗せ、そっと抱き付く。
「うん…でも、俺はもっと頼ってほしいし、甘えてもらいたい」
耳に馴染む低いアルトに目を閉じた。少し甘さを含んだこの声色は、精市が私を甘やかす時の声だ。
「それじゃあ私、ダメ人間になっちゃうよ」
「俺が安心するんだ」
「もう…」
考えておく、と言いながら唇が弧を描いた。
金雀児を引き寄せて
(結局)(考えてるのは)(似たようなこと)
金雀児(エニシダ)…ぬくもり