Un amour interdit
布袋葵に目蓋を閉じた
「小夜…」
抱きしめた身体を離し、吐息がかかるくらいにまで近づいて口づける。
「突然こんなことしてごめん…驚いたよね」
乱れた小夜の髪を手櫛で整えていると、うっすらと涙を浮かべる深い色をした瞳が俺を見上げた。僅かに微笑んだ小夜は、驚いてないと言う。
「…精市が何を考えてるか、何となく分かるから…」
はにかむように笑った小夜に、思わず顔が熱くなった。
「精市…?」
少し疲れているのか、どこか気怠げな雰囲気の小夜が小首を傾げる。
「何でもないよ、小夜」
頭を撫でると気持ちが良いのか目が細まった。その姿を見て、彼女が苦しむ姿も悲しむ姿も見たくないと改めて思う。
「…いつも、小夜ばかりが苦しい思いをしてるよね」
幼い頃が頭を過ぎる。あの頃からいつも、俺が代わってあげられたらいいのにと思っていた。
「…精市、」
小夜の咎めるような視線と声に、声に出ていたと気付いてごめんと謝る。
「冗談でも、そんな事言わないで」
冗談ではなく、本気なのだけれど。
俺も小夜と同じで小夜の病名は伏せてもらっていた。小夜の病はとても悪いものだと、周りの反応で分かってはいたが。
「ごめん、小夜…でもね、小夜がそうやって俺のこと想ってくれるのと同じくらい、俺も小夜を想ってるんだよ」
病すら共有したいと思ってしまうほどに。
「なあ小夜、頼むから少しは俺に頼って?」
俺と違って小夜は基本的に一人で何でもできるから、俺はいつも不安になる。
一人じゃ駄目なのは、いつだって俺だけだから。
ふと時計を見ると面会の終了時刻が近付いていた。小夜を見るとじっと何かを考えるかのように俺を見上げている。そんな小夜の頭を一撫でし、もう一度時間を確認してから立ち上がった。
布袋葵に目蓋を閉じた
(俺の事だけ考えて)(だなんて)(言えるわけないから)
布袋葵…揺れる心