Un amour interdit
晩秋に捧ぐエリカ
入院生活が始まって何日経ったのだろうか。窓の外にある銀杏はまだ半分も紅葉していなかったのに、今ではすっかり葉が落ち始めてしまった。
もうすぐ、秋も終わってしまう。
「いらっしゃい、精市」
聞こえたノックに反射的に振り向く。入院してからほぼ毎日来ているから、精市のノックの回数と間隔はもう覚えてしまった。
開いた扉からマフラーを首に巻いた精市が、見るからに重そうなラケットバッグを持って病室に入ってくる。
「…」
眉を寄せ、何か言いたげな表情で椅子に座った。随分と浮かない顔をしているけれど、何かあったのだろうか。
「…、…っ」
強引に抱き寄せられた衝撃で、膝の上で開いていた本が音を立てて落ちた。
「限界なんだ…」
耳元で苦しげに吐き出された言葉に心臓が跳ねる。
「…小夜が、倒れた日の夢ばかり見る。小夜が倒れて、いつもはそのまま起きるのに…小夜は倒れたままどんどん冷たくなっていって…」
「っ、」
息が出来ない。痛いくらいに抱きしめられ、喘ぐようにして声を出した。
「目が覚めても隣に小夜がいなかった」
「せ、いちっ…」
苦しいと、そう伝えるも力は強くなるばかりで。
「少しだけで、いいから…」
切なげな声に同調したのか、こっちまで痛みとは別に胸が苦しくなる。
「…精市、」
苦しくて、縋るように背中に手を回す。
寂しかったと言うと、小さい声で俺もと返ってきた。
晩秋に捧ぐエリカ
(触れ合うだけで)(こんなにも満たされる)
エリカ…寂寞、孤独