Un amour interdit
滲む葡萄
クーラーボックスを持ち上げた時だった。身体が石のように重くなって、精市の顔が霞んで。気がついた時には病院のベッドの上にいて。何か、夢を見ていたような気がする。怖いけれど、とても幸せだった夢。忘れてしまったからきっと、何でもない夢だったのだろうけれど。
「…?」
誰かが手を握っている感触に横を向くと、布団に突っ伏して寝息を立てている精市がいた。
ユニフォームから制服に着替えているから、部活が終わったか、途中で抜けてきてくれたのか。
「…ん…小夜…?」
「おはよう、精市」
不本意な居眠りだったのか、はっとしたかのように起き上がった精市に少しだけ笑みがこぼれた。
「…小夜、俺、怒ってるんだけど」
ぎゅう、と眉間に皺を寄せて泣きそうな顔で私を睨む精市に戸惑う。
「何で俺が怒ってるのか、分からないだろ?」
素直に頷くと、握られた手に力が加わった。
「…小夜、お前倒れたんだよ」
部活中、俺の目の前で。
「意識も無かったし…俺、本当に心臓が止まるかと思った」
痛いくらい握っている精市の手が、震えている。
「小夜は…死んだみたいに寝てて、呼んでも全然起きてくれないし」
「精市…」
ごめんね、と言うと、泣きそうな顔で睨まれた。
「今、母さんが先生と話してる。父さんも、夜には来るって」
俯きがちの精市を安心させるようにそっと抱きしめ、背中をさする。
「不安だった…?」
「っ、当たり前だろ!!」
手を振り解き、肩を強く掴んだ精市の目尻には涙が浮かんでいた。
「…本当にごめんね、精市」
嘘。本当は嬉しい。
「心配させるようなこと、しないって約束したのに」
精市が私のことでこんなにも取り乱して、普段の冷静沈着な仮面が剥がれ落ちる姿を見るのが堪らなく嬉しい。
余程怖かったのか、白くなった精市の頬を掴み、引き寄せる。目尻に溜まった涙をそっと舐めとれば、口内に塩の味が広がった。
「約束破って、ごめんなさい」
そんなこと、微塵も思ってないけれど。
滲む葡萄
(逃げられない所にまで)(堕ちてきて)(そうしてもっと)(私に溺れればいい)
葡萄(ブドウ)…酔いと狂気