Un amour interdit
ツボサンゴを溶かして
帰り際、そういえば、と突然丸井が振り返った。
「幸村くんと小夜ちゃんていっつもイチャイチャしてっけどさあ…嫌になったりとかしねぇの?」
イチャイチャ、という単語に少し気恥ずかしくなるも、質問の意味が分からず首を傾げた。
「どういう意味?」
「んー、だからさあ…」
そう言ったきり、あーだのえーとだの、うんうん唸っている。そんな丸井を見かねて仁王が続きを言った。
「要するにブンちゃんは、双子とはいえ妹と四六時中ずっと一緒にいて疲れないのかって言いたいんじゃろ?」
「そうそれ!」
仁王の背中をばしばし叩く丸井の横にいる赤也の興味津々といった表情に微苦笑しつつ、考えてみた。
丸井が言ってる程、四六時中ずっと一緒というわけではないけれど。
「四六時中一緒にいられるならずっと一緒にいたいな、俺は」
まあ小夜の性格からして無理だけど。
「あれ、幸村部長って小夜先輩と四六時中一緒にいるわけじゃないんスか?」
「小夜、性格と行動が完全に猫そっくりだから」
気が付いたらふらふらどっかいっちゃうんだよね、と溜め息混じりに言う。
「あー、なんか分かるわそれ」
色んな場所で見かける割に、目を離すとすぐにいなくなる。
「俺も小夜先輩見かけた時とか、別に用があるってわけじゃないんスけど直ぐに消えるから気になってたんスよね!!」
「そういや、最近も校長に竹とんぼ作ってもらって後輩と中庭で遊んどったの見たぜよ」
「あー、俺も木になってた柘榴、用務員のおばさんから貰ってたの見たな…」
赤也、仁王、ジャッカルが小夜の目撃談を語っていく。
そういえば、柘榴の件は覚えがあるな。確か人肉の味が柘榴とかいうのをどっかで見たのを思い出して、小夜が貰ってきてくれて一緒に食べてみたんだよね。
「…で、小夜ちゃんの目撃情報はいいから、結局どうなんだよぃ」
「んー?」
そうだなあ、と悩むふりをして丸井を様子見る。
「俺にとって小夜は――――」
言いかけたところで、ドアノブが回り扉が開いた。
「あれ、まだみんな残ってたの?」
扉の隙間からひょっこりと顔を覗かせた小夜に、みんな一瞬動作が止まる。
「さて、そろそろ帰るよみんな」
丸井と赤也は早く着替えて、それから赤也チャック開いてるよ。
残念そうな柳と真っ赤に固まった真田を横目に、丸井達が騒ぎ出した隙にそろりと部室から抜け出る。
「…よかったの?」
「小夜に会いたかったから」
そう言うと、困ったようにもう、と言いながら、照れたように小夜は笑った。
ツボサンゴを溶かして
(水のような)(無くては生きていけないのに)(気を抜けば簡単に手から零れ落ちてしまう)(そんな、存在)
ツボサンゴ…恋心