気持ちの〜 | ナノ


第四話.思い出せない名前


昨日、雪麗さんと別れてすぐのこと





『あ…』


「「姉様!」」





突然の目眩から意識を手放した





「ただの風邪よ」

『すみません、雪麗さん』

「いいからアンタは大人しく寝てなさい」

『わっ、はい…』







気付けば朝になっていて

額に触れられた心地よい冷たさに目が覚めた

大人しく寝てなさい、そう顔にまで布団を被せられれば

雪麗さんは襖を閉めて出ていってしまった。






しかし…






「雪麗!椿は大丈夫なのか?!」

「姉様が死んでしまうなんて、ありませんよね」

「きっと、妖に何かされたんですわ」

「妖様はそんなこと致しません!」

「アンタ達!少し黙んなさい椿が休めないでしょうが!」








襖越しに聞こえる騒ぎ声



『…眠れません』











一刻過ぎるごとに私の部屋には来客者は訪れた








「姉様」

『珱?』

「あの、入ってもよろしいですか?」

『風邪移っちゃうよ?』

「大丈夫です!」

『じゃあ、少しだけだよ』

「はいっ」





いつも一緒に居るのに、何時もより多くの会話をした



「最近姉様、妖様とばかりだったのに皐月さんや兄様までやってきたから…」

『大丈夫だよ、私の妹は珱だけだから、それだけは何も変わらないよ』

「はい!」







そしてまたある時、、、







「姉様、入りますわね」

『皐月ちゃん?』

「いいですか、姉様」

『うっうん』

「妖と言うものはですね…」


『…』

「だから姉様も、あの妖には気を付けて下さい!」


『ぬらりひょんは、皐月ちゃんが思っているような妖じゃないよ』

「ですから「はい、そこまで」」

「ぬぁ!雪女!放しなさい」

「はいはい、愚痴は後で聞くからね」

「聞き流すなんて酷いですわ!!」

「椿、当分誰も入れさせないから安心なさい」

『あ、ありがとうございます』









雪麗さんが言ってくれたように本当に暫くは

誰も訪れることはなかった。












『ん…』

「起こしちまっまか?」

『あ、いえ』





そっと頭にのせられた手に何処か安心感を感じた




『雪麗さんに怒られませんでしたか?』

「ワシは、ぬらりひょん忘れたかい?」

『そうでしたね、フフッ』

「あの男…。」

『兄様のことですか?』

「あぁ、その兄様のことなんじゃが
どうも気にくわねぇ…」

『喧嘩はしないで下さいね』

「…。」

「ぬーらーちゃん」



"ガバッ"



『「秀元(さん)?!」』

「こら、放れろ」

「えーやないの、僕とぬらちゃんの仲やないの」

「アンタとそんな仲になった覚えはねぇ!」

「まっ、そんなことより椿ちゃん、体の調子はどないな感じ?」

『ぇ、あぁもう全然大丈夫です』

「大丈夫なんかじゃないでしょ!それと、アンタ達いつから入ってたの?!」

「それは…」

「僕はついさっき」

「言い返さなくていいから、さっさと出ていきなさい」

「じゃあ、椿ちゃん、また明日やね」

『はい』

「ワシはまだ「早く出なさい」」



"トン"



「はぁ…」

『雪麗さん、今日は本当にありがとうございます』

「いいのよ、私もアンタが心配だったしさ…熱も、もう大丈夫みたいね」

『雪麗さんの手、冷たくて気持ちいいです』



額に触れられた雪麗さんの掌は何度触れられても気持ちよかった。



「さっ、今日はもう寝てしまいなさい明日からまた騒がしくなるだろうし」

『はい』

「じゃあ、私も行くから」

『江戸に帰られるのですか?』

「今日は此処に泊まって行くわ、おやすみ」

『おやすみなさい』





雪麗さんが部屋から出ていき部屋にはまた静寂の時間が流れた















「椿…起きて…椿…。」

『ん、誰?』




名前を呼ばれ目をさましたけれど

辺りは真っ暗で何も見えず物音もなく

静かな虫の音が聞こえることから今が深夜であることが

だいたいわかった。





『兄様?』

「起こしてしまって、わるかったね」




小さな蝋燭の小さな灯りがお互いの顔を照して

声の主を知ることができた




『いえ、そんなことは』

「椿」

『はい』

「僕の名前を呼んで?」

『兄様の、名前…』



兄様の名前、再開して

一度も口にすることはなかった

なぜ口にしないのか


それは



知らないから?


思い出せないから?



確かに昔は、その名を口にしていた。

妹である皐月ちゃんは、しっかりその名を覚えていた

なのに彼は、彼の名はどうしても思い出せない




『兄様の名前…』




どうしてだろう兄様から目が離せない

目だけではない身体そのものが動かない

何かに束縛されてしまったような




「思い出して」

『ゃめっ…』





トンッと布団に押し倒されても思うように

身体が言うことを聞いてくれない



「僕の名前は…」





助けて…





ソッと灯された灯りが消えた。

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