気持ちの〜 | ナノ


第九話.時は来て


時は夜、大阪城にて…


『あっ』

「待っておったぞ美弥子姫…
嫌、此処では椿姫と呼んだ方がいいかのぅ」

『何故それを…』

「ところで珱姫は『っ…申し訳ございません妹の珱姫は今現在留守にしておりまして私が一人でこちらに参らせて頂きました』

「そうか残念じゃのう、でも
流石…京で一番の美貌と噂の
珱姫の姉だけあってそなたも
美しい…もっと近う」

『は…はい…』


私が町に出ている事を

何故この人は知っているのだろう…

生き肝を目的にしても此処に集められた

姫達であろう基準は?

何はともあれ時間を稼がなくては…


「ちょっと…いつまで緊張で
ふるえてるの?貞姫?
淀殿への自己紹介の途中よ」

「私は…」

「私のような田舎者を側室に
選んでいただき光栄です…」

『あの…貞姫様…大丈夫ですか?』


髪長姫、改めて宮子姫が

自己紹介の中 異常に震えて

いる貞姫に声をかけた


「わっ私には未来が見えるのです…
私達はあの方に…きやあぁぁ」


【ドサッ】


「ん…ん…やはり不思議な力を
持つ者の肝は違う…」

『なっ?!…』

「はう…はう…や…やっぱり
喰べられてしまうのね…
私の…見た未来が現実に…!」

『貞姫、動いては駄目!』



"未来が現実に"と口にして

その場から逃げようとした

貞姫は、あっとゆう間に

妖に捕まってしまった


「外に出してぇぇー」

「何事だ!!」

「あぁ妖が…妖がー」

「淀殿…これは一体どういう
ことだ!!」


【ゴロン…】


「淀殿、あまり派手になさるな」

「いやあああぁぁぁぁ」


貞姫の叫び声に気付いた

豊臣秀頼様の部下であろう方が

部屋に入って来た

助かったと思ったつかの間

その方は首を切断され

無残にも殺されてしまった。

その光景に圧倒されていた

間に貞姫は淀姫に引きずられ

姿を消してしまった…


『(貞姫…)』

「ひっひっく…うぇ〜ん」

『この子は…』



苔姫の涙が真珠に変わって

ようやく気付いた…

ここに集められた姫達は

皆何かの能力を持つ者…


「おそれることはない…
椿姫…そなたたちの
血肉は妖怪千年の京の礎と
なるのだから」

『こっ苔姫は離れて』

「面白い姫じゃ…ゆだねよ
美しき姫…………」

『ぬら…りひょん…』


死を覚悟したその時


『っ』

「何奴じゃ?!」

「…ヤクザ者か」

「ワシは奴良組総大将ぬらりひょんこいつは
ワシの女だ。わりぃが、つれて帰るぜ」

『…』

「なんと…妖が人を助けに?
異な事をする奴じゃ
血迷うたはぐれ鼠か何かか?」

『わっ』


ぬらりひょんが来ただけでも

充分に驚いているのに

その後を追うように沢山の妖が

一部屋に押し寄せて来た


「なんだ…きたのかてめーら」

「百鬼夜行ですからな」

「入れ墨だけじゃ寂しいでしょう」

「…バカな奴らじゃ」

「何やら珍客が多いのう
力の差もわからぬ虫ケラが…」



「曲者じゃキタナイ鼠共が入り
込んでおるぞ…誰か余興を
見せてくれる者はおらぬか?」

「我が名は凱郎太!」


羽衣狐の一言によって

一人の妖が名乗り出てきた


「この技の名を冥土の土産に
持っていけ」


その手に持つ物を振り回せば

強い風か吹き小妖怪等は

簡単に吹き飛ばされて行った


「跡形もなく吹き飛びおったわ」

「何じゃ呆気ない」

『っ…(ぬらりひょん)』

「凱郎太!!」

「のけ」


姿のない思い人を視線だけで

探して見るものの姿は見えず

一筋の涙が流れそうになった時

彼の声が聞こえ凱郎太と名乗る

妖の叫び声と共に再び

ぬらりひょんは姿を現した


「な…なああぁ」

「邪魔する奴ぁ、たたっ斬る」


それを合図とするようにぬらりひょんに続き

ぬらりひょん側、羽衣狐側と

乱戦が繰り出された


「総大将につづけー!」

「ひるむな!必死と心定めれば
畏れるものなど何もない!」

「何をしておる、お前達…
妖としての格の違いを見せて
やらんか…!」


乱戦から離れるかのように

羽衣狐は高見の見物と言わん

ばかりに小さな笑い声を

漏らしていた。そんな時

ぬらりひょんが姿を再び現した


「面白い…面白い余興じゃ…
ここまで魅せる役者も珍しい
妾に刃向こうた妖は百年振りじゃ」



「ワシの女に触んじゃねぇ!!」

『っ//…』

こんな状況で、こんなことを

思ってしまうのは不謹慎

なのかもしれない…それでも

ぬらりひょんの言葉に胸が

高鳴ってしまった


「ガハッ…」

『ぬらりひょん!』


羽衣狐の尾がぬらりひょんを

襲う…口から血を吐き

その姿が見るに耐えなかった。


「ほう…この女に惚れているのか
この芝居は本当に奇想天外じゃ」

『芝居なんかじゃないっ!』

「そう暴れるでないっ…この姫は
妖を誑かす力を持っておるのか」


暴れ逃れようとしても逃れ

きれずに唇に羽衣狐の指が

微かに触れる


「ますます、その生き肝
喰ろうてみたくなったわい」

「椿ー!!」


私の名を叫びながら助けようと

してくれている、ぬらりひょん

先程と同様に羽衣狐の尾が

ぬらりひょんを襲い今度は

深くぬらりひょんを傷つけた


「ガ…」

「少しは、やるかと思っていたら
お前もそこらの凡百の妖と一緒
これは《余興》じゃぞ………
楽しませてみろ」

「ぐ……」

『もう』


起き上がらなくていいと思った

起き上がらないでと思った。

私一人が生き肝を渡せば大切な

この人だけは仲良くしてくれた

あの妖達は助かるのだから…

それでもなお、ぬらりひょんは

立ち上がろうとしていた…



「…お前に、この尻尾の数が
見えるか?妾も数えてはおらん
妾の《転生》した数と同じじゃ
歯向かって、血の気の多い妖に
反応するようになった」

『やめてぇっ』


ぬらりひょんが刀を握った途端

羽衣狐は…羽衣狐の尾は

ぬらりひょんに見境なく

攻撃を始めた…


「ほれほれ、お前の惚れた
女を頂くぞ…踊れ死の舞踏を
妖の血肉舞うのが演目ならそれもよかろうて」

『ぬらりひょん!』


身体は傷でボロボロ

血が滴り治してあげたくても

足掻くことしかできない


『離してっ!ぬらりひょんっ』

「離せば助けに行くのであろう
能力は知っておるぞ…そういう
のはつまらん」

『っ…どうして?』

「ん?」

『どうして!こんな無茶ばかり
するんですか?!私は貴方が
がわかりません!死んでしまえば
何も伝えられない…じゃない…
ですか…男の人は、こんなにも
ボロボロになるまで…皆、男の人
はこうなのですか?!…』

「カワイイことを言うのう椿姫
いいかぇ?世の中は人でも妖でも
《カシコイ男》は大勢いるのだ…
男を知らんな」

『…』

「初めて知った男があんなバカで
愚直で…カワイそうに、そして…
最後の男なんじゃからな」

「椿」

『ぬらりひょんっ』


よろめきながら立ち上がる

ぬらりひょん見ているだけで

胸が締め付けられそうになる…

本当はもう立たないでほしい

そんな時にはっきりとした

声で名前を呼ばれた


「椿…ワシはお前の目に…
今どう映ってる?やはりそいつ
が言うようにバカに映るか…?」

『(そんなこと…)』


"そんなことない"口に出して

言いたかったのに何故か声が

出てくれなくて首を横に降って

見せることしかできなかった


「あんたのことを考えるとな…
心が…綻ぶんじゃ例えるなら
《椿》美しく…凛としていて…
儚げで見る者の心をやわらげる」

『私は…』

「あんたがそばにおるだけで
きっとワシの、まわりは華やぐ
そんな未来が…見えるんじゃ
…なのに…あんたは不幸な
顔をしていた。ワシがあんたを
幸せにする…どうじゃ目の前に
いるワシはあんたを幸せに出来る
男に見えるか?」


一人で話し始めたぬらりひょん

一番傷つき話すのもやっとだと

思っていた…そんか彼に私は

一言も声がかけられなかった

頬に涙がつたい、ただ話しを

聞くだけの状態だった…。


「見えんだろうな…ワシはあんたに
カッコイイことを見せつけて惚れさせ
にゃーいかんのにな…」

『もう…』


"私は貴方に惚れています"

そう口にださなくても

いつの間にか気づいてしまった感情だから…

そんな時、ぬらりひょんから一帯の空気が

変わった。そしてそれが少しほんの少しだけ怖いと思った。


「あんたに溺れて見失うところじゃった…
そろそろ返してもらうぞ、羽衣狐」

『ぬらり…ひょん…?』

「行くぞ…ここからが闇…
妖の…本来の戦じゃ」


【2011/10/20】。

prev / next

[TOP]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -