「勝ちを肯定して、何が悪い?」
スティールを決め、易々とシュートをして見せた彼はこちらを振り返って言った。どこか演技のような言葉に聞き覚えがあるような気がして、無意識に呼吸が詰まる。おかしい、彼としっかりと向き合ったのは、今回が初めて、で。
彼から嘲るような薄ら笑いが消えた。先ほどまでの表情がまるで嘘みたいに無表情に近くなる。この表情に覚えがあった。だって、僕はこの表情をする人を知っている。
花宮さんが一歩を僕に向かって踏み出す。狭くなる距離、僕は後ずさることもできないまま。
あ、かしくん。
口が音のない声を紡ぐ。
けれど、それは目の前の人によって塗りつぶされる。先ほどはなかった威圧感が喋るなと言っているようで、僕はただそれを受け入れるしかない。
「勝つことで、俺は認められてきた。勝つことは正しい、つまりはさ、勝つ人が正しいってわけだ」
「っ」
「そして、それは当たり前のことだろ?」
彼は口で弧を描いて「笑ってみせた」。
(君たちの王様はそう言っていたろう?勝つことがすべてだと)
僕はその考えを知っている。それは僕をあそこに救い上げた彼の言葉だから。けれど、それは目の前の彼ではない。おかしい。何が。何で。何で彼はその言葉を知っている?なんで同じ表情をする?なんで同じ目をしている?これじゃ、まるで、彼が。(彼が目の前にいるようじゃないか)
なんで君がここにいるんですか。
――赤司くん。
それだけをようやく彼だけにとはいえ聞こえる音に出すことができた。いつの間にかうつ向いていた視線を彼に向ける。ひどくゆっくりした動きだった。
体は震えていたかもしれない。息も、上手くできていなかったかもしれない。それすら分からないくらいに僕の思考回路は支配されていて。紫がかった黒と赤、それは違うはずなのに、君が、いる。
「おかしなことを言うね、俺は赤司じゃないよ」
君を拾い上げた人じゃないよ――黒子。
(まぁ、あながち外れちゃいないけど)
神様さかさでワンと鳴く