リクエスト | ナノ
痛みを訴える喉、ごほごほと掠れた咳が時折こぼれる。

風邪を引いたらしい。季節の変わり目とはいえ、いつも風邪なんか引かないから、最初は風邪なんて思わなくて、昨日、声出しすぎるようなことしたっけ、と考えたくらいだった。今だって風邪なのか、と半分認めたくない気分だ。つまり、私にとったら、それくらいあり得ないことだったのだ。念のため、熱を計ったら平熱より少し上を示していた。そこでようやく、私は風邪を引いたのだと認めた。

「なまえ、今日は休み?声、酷いで」

「え"、そこまで酷いかな?」

「そこまでっていうか普通に酷いわ。担任の先生には言っておくさかい」

「………皆勤賞…」

「諦めなさい」

無情にそう言って、さらりと頭を撫でる父さんの手に目を細めた。そういえば、さっき、金兄が元気に出ていったっけ。あいつはいつだって元気だったなぁ、と、ちょっと恨めしく思う。はーい、と気の抜けるような返事をしたら、たしかに声は掠れていた。


学校を一日休むことになると、ずいぶん退屈だった。悪化しないように寝ていなければいけないし、私の部屋にテレビはない上に、私はもともと見ない。
でも、一つだけ、嬉しいことがあった。嬉しい、なんて邪な感想かもしれないけど。

柔兄が任務があるだろうに、時折来てくれるのだ。
心配させてまっているのは、少し申し訳ないけど。

「大丈夫か?なまえ」

「平気だよ。ちょっと熱があるだけだし。喉も、楽になったから」

「そか…。魔障でもないみたいやし、安心したわ」

「大げさだなぁ」

「大げさやないわ。坊や猫も心配しとったし、さっさと治しぃ」

「…うん」

柔兄の言葉に、小さく頷く。心中では、むくむくと申し訳ない気持ちが膨らんでいたけれど、同時に嬉しいとも思った。
心配してくれているという二人の姿が目に浮かぶ。彼らのことだから、学校から帰ってきたら、こっちに来てくれるかもしれない。宿題とか、やらなければいけないこともあるだろうに。でも、坊や子猫丸は真面目だから、しっかりやるんだろうなぁ。
黙ってしまった私に、不安にでもなったと思ったのか、柔兄が朗らかに笑って、私の頭を優しく撫でた。

「大丈夫や、なまえは強い子やから、風邪なんかすぐ治る」

「…ん、」

明日はまた三人一緒にいられるといいな、と小さく呟いて、重たくなりつつあった瞼を閉じた。
バタバタ。遠くなる世界の隅っこ。こちらに駆けてくる足音が聞こえた。



シンデレラの凱旋