「なんで、カントクは、」
――バスケを作る方(そちら)を選んだんですか?
かの奇跡の世代の、幻の六人目という、たいそうな通り名を持つ空色はそう聞いてきた。
昔から。
昔から、運動をするより見る方が好きだった。そこから、ああすれば点がもっと入るようになるだとか、シュートがしやすくなるだとか、そういうことを考えるのはもっと好きだった。だから、ゲームソフトだって育成するスポーツゲームばかり持っている。そのなかでも、バスケがいちばん好きだった。バスケは考える方だって頭を使う。だからといって、他のスポーツがそうじゃないのかってわけではないけど。
「運動が苦手なわけじゃないよ?でも、こっちの方が好きで向いていた、それだけのことかな。言ってしまうなら」
「はぁ。僕はカントクのことを尊敬してますよ、先輩としても、監督としても」
「それはどうも。ご褒美に練習メニューを倍にしてあげようか?」
「遠慮します」
「冗談だよ。黒子、死んじゃうし。火神なら大歓迎なんだけどなー」
小さく笑えば、黒子はどこか困ったように眉を下げた。
「でも、バスケをしたいとは、思わないんですか」
黒子が、ぼやりと言った。俺は苦笑いにもならない笑みを溢す。
たしかに、黒子が言うことはもっともだろう。
自分で言うのもなんだけど、俺は運動能力は特に悪いわけじゃない。鍛えればそれなりにはなるだろうくらいには。自分の身体能力値は分かっているから、なおさら。でも、それは俺にとっては楽しくないことだから。いや、楽しくないわけじゃない。きっと鉄平や日向たちとやるなら、それは楽しいものだろう。
けど。
「俺にはね、選手は向いてないと思うんだよ」
「…カントクの運動神経なら、向いてないということはないかと」
「うーん、そういうんじゃなくてさ。なんか、向いてないって思うんだよな」
「カントクらしくないですね、不確定なことなんて」
「うん、それは俺も思う。でも、なんとなくとしか言えないんだよ」
自分が理論うんぬん寄りな人間である自覚はあるから、黒子の言葉に、そう言うしかない。
「でも、ゲーム考えたり、メニュー考えたりするのががどうしようも楽しくて面白くてさ。それがあいつらの支えになんなら、一石二鳥だし、いいと思わない?」
だから、それを選んだだよね。笑顔を添い付けて言えば、黒子は小さく頷いて。
「そうですね…とりあえず、カントクが、幸せな人だということは分かりました」
「うん、人の話聞こうか?黒子くんや」
無作為に愛してみようと思う