×っぽいかもしれません
まるで犬のような人だった。黄瀬くんも別の意味で犬みたいだったけども、彼は警察犬のようだった。
警察犬が犯人を探すように、僕らを探し出すことができた。それはもう、特技と言っていいほどに。
僕が体育館の隅で死にかけていても、緑間くんと赤司くんが部室でこっそり将棋をやっていても、青峰くんがサボっていたり、紫原くんが居眠りしていたり、目立たない場所で黄瀬くんが女の子に告白されていたりしようなんだろうが、見つけられた。
警察犬のようだと例えたのは僕ではなかったけれど、まさに、彼はそんな人だった。
「警察犬?」
その事実をなまえくんに伝えれば、彼はおかしなことを聞いたように言葉を繰り返した。どこか猫を思わせるつり目がちな目を丸くして瞬きを数回繰り返す。
「どうして警察犬なんだよ」
「君は鋭い嗅覚でも持ってるみたいに人探しが得意だったので」
「そうか?」
彼が首を傾げるたびにぱさぱさと赤い髪が揺れた。
俺が警察犬ねぇ、へぇ、はぁ、え、犬?黄瀬と同じかよ、あいつは警察犬じゃないよなぁ。彼はそんな言葉を呟いたあと、くつくつと肩を震わせて笑った。とりあえず、黄瀬くんにとても失礼である。
そう思ったけど、僕に黄瀬くんを労ってやる義理はないので、なまえくんが奢ってくれたバニラシェイクを音を鳴らして吸い上げた。
「ともかく、犬みたいだと言われたのははじめてだな」
「でも、犬っぽいですよ、君も」
「はぁ、なんでぇ?」
彼はまた目を丸くした。意外な言葉だったらしい。
間延びした声が彼らしくない。
たった今、思い出したのだけど、彼が犬っぽいというのは、黄瀬くんや桃井さんから聞いたことだった。
後ろからついて来てなまえを呼んで隣に並んできたり、ちょっとしたとき助けてくれたりするところが飼い主に忠実な犬らしい、と。前者が黄瀬くん、後者が桃井さんだ。たしかに駆け寄ってくるのはそう見えなくもない。
だとしたら、彼はとてもよく躾のされた犬なのだろう。
「見た目は猫なのに、中身は犬だなんて君は変わってますねぇ」
「え、ちょ、何言ってんだ黒子」
また僕らを見つけてくれますか。そう問いかければ、きっと彼は呆れたように溜め息を吐いて、それから仕方なさそうに笑って、分かったよ、と言うのだろう。
「わんっ」