始まって間もない授業は真面目に聞くやつが多いのか、教室は黒板にチョークがぶつかる音と紙と鉛の芯が擦れる音に埋め尽くされていた。
俺の横では、目立つ金髪と黄色がかった茶色の目の見慣れすぎた顔がこっちを見ていた。最初は無視していたのだが、さすがに痛い。目力強すぎだろ。と何度、悪態をついたことか。
なんだよ。耐えきれず、声には出さずに言えば、黄瀬もまた声には出さないで、分かんない、と眉を下げた。
いや、知んねーよ。
思わず声に出そうになった。分かんないって、俺もちゃんと聞いてなきゃ分かんなくなんだよ。
黒板に目を移す。一度くらいは聞いたことがある和歌がつらつらと並んでいる。教師の説明は分かりやすくも分かりにくくもない。
「だって何スかあれ。何語」
「どう考えても日本語だろ」
「日本語じゃないッスよ、あんなの」
「日本語だっつうの。漢字があるだろ」
「中国語なんスよ」
「それは無理があるだろ。平仮名あんじゃねぇか」
「じゃ、じゃあ」
「何に張り合ってんだお前」
分かんないなら授業聞け、と一般論を言ってやったのに、まぁまぁできたんスよ今までだったら!と何に必死になっているのか分からない主張が返ってきた。
だから何に張り合ってんだ、こいつは。
「つうか何だそれムカつく」
「へ?なんでッスか」
「そことかだな」
悪気なく、ぽけっとした何とも間抜けの表情に苛と来て消しゴムを黄瀬に放り投げた。ぶれることなく当たったそれに黄瀬は悲鳴をあげ、消しゴムはその弾性エネルギーでこちらに戻ってきた。
「な、何するんスか!?なまえっち!」
「黄瀬、やかましい。そんなに廊下に立ちたいか」
「へ、いや」
「センセー、黄瀬くんが邪魔してきまーす」
「なまえっちぃいい!」
「よし、黄瀬、廊下立ってろ」
わたしを組み込む隙間