「夏祭り?」
「そう、黒子っちたちに誘われたんスけど、一緒に行かないスか?」
「祭り、ねぇ…」
そういえば、あった気がする。笑顔で言ってくる黄瀬はたぶん行くんだろう。
別に断る理由もないから、行く、と二つ返事で頷いたのは二日前のことだ。
黄瀬の勢いに背を押されるように提灯が照らす道を歩く。他の面子は先に行っているらしく、さっきから黄瀬は撮影がなければと繰り返している。
祭りは大規模なものじゃなかったが、それなりに賑わっていた。
「黒子っちたちいたぁ!」
「うるせぇよ黄瀬」
「ちょっとうるさいです、黄瀬くん。あとなまえくん、こんばんは」
「ひどい!ねぇなまえっち?」
「今のはお前が悪いかもな」
こっぴどく扱われて項垂れる黄瀬に苦笑するしかない。でも、黄瀬にこうずけずけ物言いをするのはこいつらだけな気がする。
それがなんだか新鮮で、悪くはないよなぁと思えてしまう。黄瀬には悪いけど。
ていうか、泣くなよ。
目立つから。
そう黄瀬に目立たないようにと付けていたサングラスを押し付けた。
帽子も被ってこないとか、目立ちたいのか、こいつは。
「黄瀬いじりはそこまでにしとけ。黄瀬がうじうじしててめんどくさい。ほら、さっさと回っちまおーぜ。つうか征たちどこ行った」
「あ、先に回ってるらしいです。そのうち合流しますよ」
「あの紫原がいるからすぐ分かるだろ」
「あー、目立つッスよね。背、高いし」
「お前らが言うな」
「そうですよ、嫌みですか」
****
「ってことがあった」
「相変わらずだな。あ、緑間、飲料を買ってきてくれないか」
「あ、俺も」
「…お前たち」
何か言いたげに眉をひそめた緑間は結局、近くの屋台に歩いていく。なんだかんだで優しいなぁと二人して笑う。
がりがりと紫原から貰った、キャラクターを真似た飴を頭からかみ砕く。横では弟が林檎飴を同じようにかみ砕いていた。誰かが共食いみたいだなと笑っていたが、本人はさして気にも止めていないらしく、飴の体積を削っていく。
さっきから青峰は屋台のものを平らげていて、桃井が呆れたように見ていた…というわけではなく、桃井は黒子と一緒にいた。緩みきった笑顔が彼女の心境を表しているようだった。
ちょうど目の前の射的では紫原が容赦なく玩具の銃で品物を撃ち落として屋台のおっさんを泣かせていた。可哀想に、なんて他人事にしか思わない思考は弟に似ているのかもしれない。
「屋台泣かせだな、あいつら」
「少なくとも、儲けていることになっているんだし、客が楽しんでいるんだから悪くないだろ」
「…泣いてるけどな」
「嬉し泣きだろ」
「あんな悲壮感に染められた嬉し泣きは初めて見たのだよ」
「緑間」
いつの間に。
降ってきた声は呆れを含むもの。見上げれば、炭酸飲料を並々に注がれた紙コップを差し出された。
そういえば、弟に口出しではないが、こう、いろいろと言うのも、あいつらだけだ。ちゃんと見てやるのも、あいつらだけだ。
舌で弾けるそれを飲みながら、瞼を落とした。
楽しいッスね、といつだか誰かが笑っていた。もうその言葉に含まれている語尾のせいで誰かは分かるけど。
悪くはない、同じ顔を珍しく緩めて弟は言った。お前もだろう、と。
「…悪くないよ」
「なまえ?」
眩しいくらい、に。
ねぇ、もう悲しくないですか、寂しくないですか
色を食べる
お祭りをいかせてないですね…。最後の言葉はなまえくんから誰かへ