*泣くくらいなら忘れてしまえ 一年に一度あるかないかという大豪雨。先ほどから喧しく雷が鳴り響いている。常人よりわりかし良い耳は絶えず雨音や雷鳴を拾うので喧しい。 雷は嫌いだった。 あれは生の声。生きているものの声。 まるで責められているようだ。 「…佐助」 「どうした、才蔵」 名前を呼ばれ振り返れば、才蔵が少し眉を寄せて佇んでいた。眉を寄せている理由なんて分かりきっているのだけど。 だって俺の口元は歪に歪んでいるのだから。 「…いや、おっさんが呼んでたぞ」 「嗚呼、そうか。今行く」 才蔵の言葉に頷き、まだ鳴り響いている雷を遮るかのように戸を閉めた。 そのまま身を返して才蔵の横を通りすぎた。 幸村様からの任務ねぇ。 なんだろうか。最近は荒れていると聞くし、あっちの方だろうか。 まぁどちらでもいいけど。どっちにしたって、ね。 「楽に終わるといいなぁ」 今日は苛苛してるんだ。 小さく笑えば、雷がよりいっそう激しく鳴った。 …だから嫌いなんだ。 だれもかれもみんなね捨て切れない心を浮かせているのさ |