べちんとは程遠いばちんという音。それは所謂平手なのだが、そんな生易しいものではなかった。少なくとも、殴られた木吉にとっては。 「ざけんなよ?」 「…いや、ちょっと落ち着けって日向」 もともとそこまで高くない声をさらに低くして睨む順。身長差のせいで順が木吉を見上げる形になるのだが威厳は順が遥かに勝っていた。 ヤバい。そう思うことは少なくないのだが今回ばかりは本当にヤバい。 けれど、決して順は喧嘩を売っているわけではない。普段は淡白だが順はそれなりに気遣いだってある。特に主将という職業?柄、バスケ部の面々にはかなり気を配っている。それこそ、自分の体調に気付かないくらいに。 だからこそ、順は木吉に対して苛立ちからだとか、そんなものをぶつけているわけじゃない。 「…足痛めてんだろ。無理して笑ってたって分かるんだよ」 「…いやー流石だな日向」 痛いところを突かれ、木吉は思わず苦笑いを浮かべる。どうやら、気付かれていたらしい。 そう、ただの心配からの怒り。木吉は一年の頃、試合で足を痛めた。それは完治したわけじゃない。いわば、爆弾を抱えているようなもの。 順はそれを誰より気にしている。無表情なくせ、そういうことはしっかりしているのだから不思議なものだ。だからこそ、順は慕われているわけなのだけど。 それに、今の順ははっきりと感情を表に出している。 「話逸らしてんじゃねぇよ。そうやってへらへらしてたら誰も気付かねぇとか思ってんなよ」 「だよなぁ」 「お前、自分がバスケ部(ここ)にとってどういう存在だか分かってんのか?」 「エース?」 ばちん。また叩かれた。 さっきより痛い。けれど、それより。 「お前な、エースじゃねえよ、仲間だろ。お前が倒れた時あいつらがどんだけ心配したか。忘れたなんて言うなよ?」 「…忘れてないさ」 忘れてない 皆に心配かけた。こいつも、日向だって心配しただろう。あの時の、順の悔しさからか歪んだ表情だって頭に焼き付いていた。 仲間の異変には一番に気付く。 主将というのはそういうものだと彼は思っていたのだろうから。今の順がそこから形成されているのだ。 順がこうなったのも、俺のせいか。 苦笑いを通り越して自分に呆れてしまう。 木吉は小さく笑い、眉をひそめてこちらを睨む順の頭を軽く叩く。とたんに順は少し呆れたような顔になる。 やっぱり、こいつは甘い。絶対に許してしまうだろう。 「ごめんな」 「…分かりゃいいんだよ、ダアホ」 そう言って小さく、笑う。 だって、君は優しいから。その優しさに救われた。 何処までも青すぎる空にふいに泣きたくなったのはたぶんこれで8回目 崩れ去る勝利 (結局おあいにくさま) …… アンケートより 原作は夫婦ですよね |