日向成り代わり | ナノ
音をたてて降り続く雨に順は溜め息を吐く。何回目だろうか。数えるのも飽きるほど多く。髪が濡れて頬にへばりつく。鬱陶しいなと、適当に払う。

もうどれだけこうしていたか。こんなに降るんだったら天気予報を見とくんだったな、と後悔しても時すでに遅し。ずぶ濡れだ。今は濡れない場所にいるから良しにしろ、しばらくは乾かないだろう。

「どーすっかな…」

「どうしようもないですね」

「そーだな、って、え?」

(今、俺誰と話した?)

横に誰かいたか?
…いや、いなかったはずだ。なら誰が返事をした?順の頭の中をぐるぐると自問自答が回った。順は一瞬固まったあと、恐る恐る横を見た。そこには。

「………いつからいたんだ、黒子」

「さっきからです」

黒子が平然と立っていた。しかも先ほどからいたというではないか。まったく気付かなかった。誠凛バスケ部にとって黒子の影の薄さは百も承知だ。それで何度困らされ、そして助けられたことか。にしても心臓に悪い。

順は苦笑いしたあと、黒子に、「悪い」と返した。黒子は馴れているのかさして気にしたようすもなく首を振った。

「でも、いたなら声ぐれーかけろ」

「すみません」

「いや、いいんだけどな」

気にしないさ
そう言うように順は黒子の頭を撫でたあと、降り続く雨に視線を戻した。一向に止むようすはない。まあ、いざとなったら雨のなか走って帰るつもりなのだが。唯一の心配といえば風邪を拗らせないか。別に風邪を拗らせる自体は良いのだが、あとの、というよりリコの叱りを受けるのが面倒だ。昔よく「選手なら体を気遣うこと!」と耳にたこができるほど言われ続けていたから。

よくよく見ると、何故か黒子は濡れていない。なら、傘を持っていたのか。…それはない。あったら雨宿りなどする必要はないのだから。

(…どうでもいいことか)

暇すぎて、思考すらアホになったかと順は小さく笑う。

考えたって分かりやしないのだ。ならいっそのこと気にしないほうがいい。そう思い順は。

「なあ、黒子」

「なんでしょう?」




「少し、世間話にでも付き合ってくれないか?」

この雨があがるまで

その言葉に黒子は目を見開いたあと、無表情を僅かに崩し


「いいですよ」


そう返した



(付属品は静かな雨)


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迷子になったので切りました

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