フリリク企画 | ナノ



( 僕はきみしか知らない )


椿はひどく嬉しかった。それはもう、ひどく。例えるならそう、手に入らないものが手に入ったときのように。椿は人間だ。人間なのだから感情がある。だから喜怒哀楽が存在する。だからひとを好きになる。愛する。それは至極普通の自然の摂理なのである。


白いとは言えないが健康的な肌に手を伸ばし滑らせる。目の前の双子の姉はきょとんとした表情で固まっていたがそれは見る間に赤くなる。なにしてるの、椿。あたふたとしている彼女がいとおしい。
椿は人間なのだから恋というものをする。椿は恋をした。双子の姉にだ。
最初は戸惑いというものもあったが、愛しているという感情を認知してしまえばそんなもの空に浮かぶ雲のように当たり前のように消えた。人間で最初のカップルは兄弟なのだからなんらおかしくない。いとおしい。それだけで十分だった。

「藤崎…」

「つ、つばき?どうしたの、よ。なんか変じゃない?あんた」

視界で赤い帽子がちらつく。
戸惑う顔に椿は笑う。
ああいとおしいひとよ。
このまま抱き締めてしまおうか。この腕という名の鎖で、どこにもいかないように。そしたらずっとこのままでいられる。彼女に愛というものを囁けるし、彼女は自分以外を見なくなる。ああそれもいいかもしれない。ひとはこれを異常と呼ぶかもしれない。だから、どうした。異常であっても愛には変わりない。


「藤崎、お前を愛している」


永久に、永遠に。
閉じ込めるように抱き締めて、椿は赤くなる名前に口付ける。


君を愛します。
君だけを、ただ。
だから君も僕だけを見て?


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