フリリク企画 | ナノ



( エコー、エコー。響き渡る絶叫。 )


バキィ゙インと壮絶な音を伴い廊下を歩いていた柔造の前を飛んでいったのはあまり原型を留めていない取っ手のついた箱でそれは地面にぶつかって中身を弾き出した。中から弾け出たのは消毒液や絆創膏やその他もろもろつまりは手当てのための道具で、飛んでいった箱は救急箱だったようだ。柔造はそれが飛んできた方向を辿ればそこそこの強度を保つはずの障子が紙と骨組みもろとも大きな穴を開けていた。
どうしたのか、と障子を開こうとしたとたん、聞こえたのは怒号というに相応しいそれで。

「ふざけんなよクソ親父ィイィイ!!」

「なにほざいとんのや!アホかお前は!しかも今クソ言うたか?!」

「言ったけど?言いましたけどなにかぁ゙!?」

叫び合っていたのは紛れもなく柔造の父と妹で、それは紛れもない事実である。父はともかく、どんな暴言を吐いていようとも妹は妹だった。柔造も自分が短気だというのは自覚している。それは父譲りなのだと思う。妹の名前はどちらかと言えばたおやかでどこの血を引いてきたのかと思うほど志摩家にしては大人しい人間なのだが、やはり志摩家の娘。

「そもそも!私の沢庵をとった親父が悪い!!2900000パーセンテージ親父が悪い!!」

「あ゙?たかが沢庵ひときれで喧しいんや!」

「たかが沢庵ひときれでも私にとったらすべてなんだよぉおぉ!どうしてくれんの高級沢庵ンンン!私のおかず!」

そう、たった沢庵ひときれを父に食われて障子を破壊するほどの喧嘩に発展させられるほどある意味喧嘩の天才なのだ。付け足すなら志摩家を含め明陀は貧乏なためたしかに沢庵は貴重なおかずに違いはない。
だからといってここまでするだろうか。しかもきれかたが母譲りで大抵父が負けるのだ。

「沢庵返せ」

「親に向かってその「沢庵」」

ギラギラと名前の目が光る。沢庵ごときで獣の目をする妹に柔造は複雑だった。複雑どころの話じゃない。いつも柔造が宝生三姉妹にからかわれても彼女はただ仲良しねと笑うだけなのだが。自身の価値は沢庵に劣るのかと思うと沢庵に嫉妬できそうだった。シスコンとは誰も言えまい。


「沢庵返せ沢庵」

「…すまんかった」

「そ、なら良かった」

にこり。いつの間にか収束していた喧嘩は名前の先ほどまで般若のようだった表情とは似ても似つかない笑顔で締め括られた。


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