フリリク企画 | ナノ



( 傍らに、あなた )


人のざわめく足音や声が新鮮に感じる。花開院は確かにたくさん人はいるけれど先代秀元の言いつけのせいか静かなのだ。
はっきり言って落ち着かない。こういう場所は慣れない。でもやっぱり新鮮だ。昔から─今はともかく─体のせいで学校行事なんか参加できなかったからなあ。呼んでくれたリクオには感謝しないとな。

「すごいですね、名前様!」

「うん、山吹。気持ちは分かるけど落ち着けな?あと様付けは今は禁止って、」

「あ、すみません…つい」

「まぁ、楽しんでるならいいよ」


山吹の嬉しそうな顔も見れたわけだ。行こうか、と促せば山吹が早く早くと言わんばかりに目を輝かせるものだから思わず苦笑した。


そこそこ広い学校をあちらこちらと見て回る。出し物というのか、初めて見るそれはなかなか面白くて山吹と柄にもなくはしゃいでしまった。端から見れば高校のような女二人がはしゃいでいるのはなかなか奇っ怪だったかもしれない。もらったパンフは山吹が当たり前のようにいる妖に道案内させているせいで必要なくなってしまった。
こんなにいるんだから“昼間”のリクオは大変だろうな。周りには隠しているらしいし。

「山吹、リクオのクラスは、」

「あ、名前さんっ」

どこにある?と言う前に少しだけ高い声で名前を呼ばれた。覚えのある声に振り返ると、茶髪に眼鏡の少年と黒髪の少女。リクオ、と呼ぶ前にパアッ、と黒髪少女の顔が明るくなった、ように見えた。
ついで軽い衝撃。
あんまり高くない、むしろ低い私の体はよろよろと交代した。え、なに。

「名前さん!」

「わ、ゆき…」

おんな、とは続けられなかった。咄嗟に頭に彼女がいる=人間に化けているという等式が浮かんだからだった。それは功を奏したようであからさまにリクオが安堵していた。
でも、なんて呼べばいいのこの子。首を捻れば思考を読んだように少女がこちらを見上げ微笑した。

「及川氷麗です!名前さん」

「う、うん?」

「お会いしたかったです!あの時のお礼が言いたくて」

「ああ、」

なんで抱きつかれているのかは分からないけれども、彼女の言わんとすることは分かった。京都でのことだろう。お礼を言われる理由はないはずなんだけど、ね。でも、輝くような笑みで見られて無下にできるはずもなくこちらこそ、と笑い返した。内心は冷や汗だらだらだけどね、
とりあえずめちゃくちゃ目立ってるよな、私。そしてこちらを恐ろしいまでに美しく笑っている山吹が怖い。
苦笑しているリクオに視線を移し同じように苦笑い。助けて。

「り、リクオ、今日はありがとな」

「は、はい!あの…楽しかったですか?」


不安げな目がこちらを見上げる。

リクオは、私が人にどんなふうに扱われてきたか知っている。私があんまり人付き合いが好きでないことも。それを気遣っての言葉だろう。

まぁ、いらない心配になるだろうけど。
一度山吹と顔を見合せて、すぐにリクオにくしゃり、と笑う。


「ああ、とても!!」


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