フリリク企画 | ナノ



( 利己的なバラード )


彼は私にすべてを与えてくれたのだ。あの家で居場所のなかった私に。存在価値を与えてくれたのだった。この、刃とともに。

「どうかしたのか、コナツ?」

紅い瞳がこちらを向く。
名前少佐の足元には彼の紅い瞳には遠く及ばない濁った赤が広がっていた。周りに転がっているのは名前少佐がほぼ殺った者達で、私はほぼ傍観していたに等しかった。力量差が相変わらずと言われているようだったが、少佐の邪魔や足手まといにはなりたくなかった。少佐がそんなことを言うはずもないことは、分かっているが。

「どうした。どこか斬られでもしたか?」

「いえ、大丈夫です。少佐は」

「いや、大したことはないな。これでやられてたら、示しがつかない」

そうして微苦笑する。
その顔には返り血こそ付着していても、傷はひとつもなかった。
はっきり言って、少佐は優しい。アヤナミ様曰く甘いと言うことだが、アヤナミ様も少佐には甘いような気がする。何せ、敬語をなど一切使っていないという無礼をまったく咎めないのだから。それはともかく、彼は存外甘い。

そんな少佐だが、戦場に立てば修羅と形容詞されるほどで、それこそ数百人なんてものの数分で片してしまうほど容赦がない。
それでもブラックホークには優しさ以外何も向けないのだから。


そんな彼についていきたいと、守りたいと思った。
居場所を与えてくれた彼を。きっと名前少佐は優しいから、何もしなくていいと言ってくれるのだろうが。
けれど、彼を守るものはなにもないから。少佐はたくさんのものを守っているけれどそんな少佐を守るものはない。それは少佐が強いからなんだけれども。
だからせめてベグライターである私が守るのだ。守るものが守ろうとしている、守りたいものより弱いなんてずいぶん馬鹿げた話だが。

「少佐、」

「なんだ?やっぱりどっか…」

「私があなたを守ります。ベグライターとして、盾として」

はっきりと、何度目かの宣言に名前少佐は少しだけ目を瞬かせてから、馬鹿と笑った。
守れるわけない、と嘲るように笑ったのではなく、ただ諭すように。


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