フリリク企画 | ナノ



( 夢を見る時間まで夢の話をしよう )


困った。足がくたくただ。どうして私は教会にいながらこんなことをしているんだろう。私の目の前にはくるくると楽しげに踊るシスターさんや司教さんがいる。みんないつもの服ではなくてドレスだとかタキシードで、ひどく不自然だった。理由や経緯はわからないけど、フラウ司教曰く“そんな日”なんだそうだ。
それで私もここにいる身だから踊ったわけだけど。

「よぉ、楽しいか?」

「フラウ司教…楽しいですけど、疲れました」

「たまにはいいでしょう?」

「戦う以外で疲れるっていうのも」

「カストル司教にラブラドール司教!」

いつの間にか側にいた司教さん達に驚きながらも、ラブラドール司教の言うことは確かで、疲れるけれど、訓練で疲れるより全然気分もいい。ちなみに、ラブラドール司教とカストル司教とは恐れ多くも踊らせてもらった。とても上手でした。小さく頷けば、なら良かったと笑うラブラドール司教。そしてふと、思い付いたように言った。

「ね、名前ちゃん」

「はい?」

「テイト君とは踊らないの?軍では仲良かったんでしょ?」

「あ、そうですね」

「はい!親友です」

「なら踊らないの?」

あそこにいるよ、と言ったラブラドール司教の指差す先にぽつんと壁に寄りかかるように立っているテイトがいた。そういえば、テイトと踊れるんだろうか。軍での実力は飛び抜けていたけれど。
人付き合いはあまり得意じゃなかったはずだ。

「あいつ、なにしてんだ?なぁ?おーい!クソガキ!」

「え、ちょ…」

フラウ司教が声をかければ、びくりと肩を揺らしこっちを見るテイト。一応手を振っておく。だけどテイトはすぐ背を向けてしまった。あれ。
首を傾げると、フラウ司教がにやりと笑い私の肩に手を回す。え、え。なんで。カストル司教とラブラドール司教が呆れたように嘆息した。それがやや咎めるような顔をしていたのは気のせいだろうか。にしてもフラウ司教って背高いなぁ。カストル司教も高いけど。

「クソガキ!来ねぇと」

「フラウてめぇ!名前に触んな!」

なんて視線を動かした瞬間フラウ司教が吹き飛んだ。比喩とかじゃなくて、本当に。というか、テイトが蹴り飛ばしたのだ。
私はカストル司教が腕を引いてくれたおかげで助かったのだが。とりあえず痛そうだった。うん。というか、

「いっつもこうなんですか?テイトとか」

「ええ」

なんだか騒いでいる二人を見ながらカストル司教に聞けば彼はにこやかに頷く。止める気はさらさらないらしい。けれど、いつも軍じゃ誰とも話さないでいたテイトがああやって笑っていたりするのは私としても嬉しい。
思わずクスクスと笑えばラブラドール司教とカストル司教が首を傾げた。

「おや、どうかしましたか?」

「いえ」

なんだか幸せなのかと思って。小さく笑えば彼らもまた笑って。
いつの間にか側に戻っていたテイトとフラウ司教も、曖昧に微笑していた。

「なら、良かった」



君が笑うだけで僕らは救われるだなんて、笑えないですか?


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