小説 | ナノ
男主
赤本ネタバレかもしれないです


始めて見たときは、人形のようだと思った。赤に縁取られた、白い人形。綺麗な顔立ちなのに表情があまり変化しないから、なおさら。小さい少女、吠舞羅のお姫様のような。アンナ。周防さんによくなついている。二人並ぶ様子は随分アンマッチで目を惹くものだろう。

そんな彼女が自分と同じだと知ったのはいつだっただろう。もちろん、初めから分かってたんじゃない。たしか、記憶が正しければ、彼女から、その鈴が鳴るような声で、赤色のガラス越しに言われたのだ。「おなじ、」と短く。それからだろうか。彼女とよくいるようになった。もしくは彼女が俺といるようになった、か。もはや、そんなことはどうだってよかった。


静かすぎるくらいの夜だった。
雪が降るのではないかという寒さは身を切るようで、バーの中でもそれは例外じゃない。草薙さんができるだけ節電をと言っているため、暖房はお粗末な程度にしか稼働していない。火を使うにも、そんなことをしたら、家具を焦がしそうで。炎の使い方が器用ではないのが、今はうとましかった。寒いね。横でアンナが静かに言った。寒いな。静かに返した。この、手で、彼女の小さな手を握るべきではないのだろうが、彼女自身が望んだなら応じなければ。アンナの手は思いの外暖かい。お互いにソファーの上でブランケットにくるまっていると、向かいのソファーにいる十束さんがお揃いだ、と笑うから、俺は苦笑いを向け、アンナはお揃い、と繰り返した。

「お揃いっちゅーか、真似っこやろ」

カウンターで草薙さんが笑う。
洗い物は終わったらしい。十束さんは草薙さんを振り返って、

「いーの。お揃いの方がかわいいでしょ?」

「かわいいか?ま、ええけど。仲良しやん」

「たしかに。アンナ、キング以外だったら、名前に一番くっついてるし」

向けられた矛先に、言葉を濁す。曖昧。仲良し、を悪い言葉だとは思わないけれど、改まって言われると何とも言えなくなる。そうかもしれない。でも、それでいいのか。アンナがそれでいいなら、俺も構わない。幼いこの子の、外壁にでもなれるなら。けど、その在り方は正しいのか。だから、それでいいのか、と問う。
不意に、白い手が力を強くした。といっても、痛みなんかを訴えるには程遠い。アンナ?と、横に視線を動かせば、丸い瞳がこちらを見上げていた。彼女の口が動く。

「いいの」

「アンナ?」

「おなじだから。映るもの、映るイロ。一緒なら、平気だから」

それに、ミコトの近くなら、名前も怖くないよ。
静かに、静かに言った。その言葉を咀嚼するようにゆっくり目を閉じた。瞼を落とすことは怖くない。開けていても同じことだ。暗いまま。でも、アンナの色は、周防さんの色は、吠舞羅の色は。


「だから、一緒」


こちらに寄りかかる彼女の髪が首もとを掠める。十歳ほど年下の少女はひどく小さい。ブランケットと衣服が擦れる音が控え目に聞こえた。目の前の大人二人は何も言わずに、それでも、微かに微笑む気配がして。俺は、瞼を上げた。

「そう、か」

口からこぼれ落ちたのは、しばらく黙っていたせいで、掠れた声だった。

「………そうだな」

白い手を、握り返した。




ななしのかみさま

「曰はく、」様に提出させていただきました

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