いつだって、彼は泣いていた。ただ一人で、泣いていた。
人に興味があるわけでもない。むしろ、過去の因縁から嫌っているくらいだ。人は信用ならない。あんなに力を貸したのに、結局傲り昂り、裏切った。一族は、もう見ない。もしかしたら自分一人かもしれない。例えるなら、うちは一族だろうか。とはいえ、あれは滅ぼされた方にも非があったと聞くが、さして気にはならない。そもそも興味がない。人ではない私には、関係ない。
それはさておき、彼はなんだろうか。黄色の髪に蒼い目。頬には猫のひげのようなものがある。おそらくは、人と考えられるもの。子供、だった。
彼は裏道の目立たないところにうずくまり、膝を抱えて嗚咽をあげている。辺りを見渡して見たが、周りに人はいない。なぜ、こんなところにいるのだろうと彼に歩み寄った。少なくとも、人の子供は周りで騒がしく走り回っているものだと思っていた。
「…どうしましたか」
「!…だ、れ?」
「…しらなくていいですよ。貴方はどうしたのですか。なぜなくのですか?」
そう問いかければ蒼い目の彼は小さくそれを見張ったあと、言いたくないと言わんばかりに下を向いた。耳を澄ませば「おれ…一人だから」と呟くような声が聞こえ僅かに目を見開く。
一人?群れでしか力をなせない人が。もしかしたら彼は人ではないのか?いや、人だ。彼の匂いは紛れもない人、裏切り者の匂いだ。忘れもしない。
けど。彼の匂いは。
「寂しいですね」
「え…?」
「貴方は寂しいですね、悲しいですね」
そう名前が言えば、蒼い目に大粒の涙が浮かぶ。なぜ泣くのだろう。人はわからない。ただ寂しい匂いが鼻を燻る。放っておけばいい。だというのに、足が動かない。視線が動かせない。ただただ流れ落ちていく彼の涙を見つめた。
不意に、名前は手を伸ばした。それは無条件反射のようで。けれどそれはたしかに彼の何かを捉えたらしい。軽い衝撃に彼がしがみついてきたのだと分かる。不思議と嫌ではなかった。目の前にいるのはたしかに敵であるはずなのに。ただ伝わる暖かさに懐かしさを感じた。
*
「名前!」
「ナルト?」
走りよってきて腹に顔を埋めてきたナルトに、また泣いてるのですね、ナルトは。と名前は苦笑いを浮かべた。
ナルトはいつも泣いている。もちろん笑うときだってあるが泣いている時の方が最近は多い。しかもどこかに傷を作ってくる。それは痣だったり擦過傷だったり、目立たない傷もあればひどいものもあった。治りかけていたところにまた傷が出来てしまえば治るものも治らない。
名前はそれが誰によるものだか知っている。ナルトがそれに抵抗できないことも。こんな、力を持たない幼子になんの抵抗ができるのだろうな。名前はナルトの小さな体の暖かさに目を細めた。
ナルトは、守りたいもの。黄色の髪も蒼い目もみんな綺麗だし、笑顔は日輪みたいで。もともと名前のような天狗≠ヘ人を好まないけれど名前はナルトが好きだ。はじめは興味本意だったとしても、今はそれに落ち着いている。
だからナルトを傷つける誰かは許せないし、喰ってしまいたい。けれどそれはナルトの立場を悪くするだけだ。それはできない。いつかのために。だからできない。あんなやつら喰ってしまえばすぐなのに。
名前は抱き締める腕に力をこめた。
今はこうすることしかできません。それでも貴方が笑ってくれるならいくらでもやりましょう。
いつか、いつかきっと食べてあげるから。だから今だけ待っていて。
「…名前?」
名前は不思議そうな顔をするナルトに笑いかけ、その舌でナルトの涙を拭った。
「大丈夫、私はいつだってナルトの味方ですから」
「!…俺も名前の味方だってばよ」
「ありがとうございます。…ずっと、ですね」
絶対にあなたを不幸にしないから。
心配ないよ全部食べてあげるその不安さえ食べてあげます
そんな天狗の不器用な子煩悩
「曰はく、」様に提出させていただきました