小説 | ナノ
*志摩成り代わり
*なので志摩は出てきません
*駄目な人はバックしてください












人には感情がある
寂しい、悲しい、悔しい、嬉しい…たくさんの感情を持つ。それ故に、闇に落ちることもある

理解してたのに
身に染みるほど、言われていたことなのに

彼なら大丈夫、乗り越えてくれると、油断していた自分が悪(にく)い

そう考えて、私は舌打ちした

私の腕からは血が滴り、地に小さな血溜まりを作っている

今すぐにでも止血してしまいたいけど、目の前にいる彼がそれを許さない

「奥村先生!なんで!」

悪魔落ちなんかになったんですか

私は目の前の彼に向かって叫ぶ。彼──奥村雪男に。奥村先生は私を澱んだ瞳で睨む。それだけなのに、肌に鳥肌が立った
思わず腕を抱える

そんな私を見て奥村先生が言う

澱んだ瞳が、一瞬だけ
元に戻った気がした

掠れる声が、耳に響く
すごく重く、痛く

「志摩さ、ん。」

「先生…!」

「に、ぃさんを頼み、ます」

兄さん、つまりは燐のこと。それを私に頼むと言うことはつまり、

「先生、死ぬつもりですか?!」

信じられない
否定してほしい

そう叫べば、奥村先生は僅かに笑い、呟くように言った

「僕が、悪魔落ちしたことは、もう伝わってい、るはずです。他の祓魔師が僕を殺しに来る。だから志摩さんは、僕を追ってきた。違いますか?」

「!」

奥村先生の言葉に、声が出なくなった。奥村先生の言うことは違わない。私は授業中に先生が慌ただしくなったのに気がついて、それで偶然、先生達の話が耳に入った

奥村雪男が悪魔落ちした≠ニ

それが信じられなくて、認めたくなくて

でも、心あたりがあって

奥村先生は、どこか感情などを押し込めるような性格だと燐が言っていたから

祓魔師は、悪魔落ちすることがある

特に、感情を押し込めてしまうような人間は悪魔につけこまれやすい

奥村先生はまさにそれだった

私は先生や坊達が止めるのも聞かずに、走った


奥村先生を止めたくて


そして、見つけた
奥村先生は悪魔落ちしていた。私を見たとたん、発砲。反射的に交わしたけど、肩に弾が掠った
痛かった。でも、それよりも、奥村先生が悪魔落ちしたことが何より

悲しかった

あんなに優しい先生が、どうして、と

「っ燐は!!燐はどうするんですか!?先生の兄は!」

「……兄さん…は」

先生の肩がぴくりと跳ねた

「燐と先生は、たった二人の兄弟なんでしょう!?先生が死んだら………ッ」

燐は一人になる

そう言う前に、ドン、という発砲音が私の声を遮った

私の真横を弾丸が通り過ぎた。あと少しずれていたら、と思うと背筋に冷たいものが走った
よろよろと後ずさる

「先、生?」

「殺さないんですか?逆に貴女を殺しますよ。……ああ、武器を持っていないんでしたね。残念」

「ッ!」

再び発砲音
奥村先生に恐る恐る目を向ければ、にた、と笑みを浮かべる先生の姿。目は澱んでいた

殺される

不意に涙が零れた
そのせいで目の前が霞む

かつん、かつんと靴の音が近づいてくる。まるで私の命の終わりを告げるタイムリミットみたいに。ゆっくりと

かつん

足音が止まり、目の前に銃口が朧気に見えた

「さよなら、」

先生が、笑った
ひどく悲しそうに

「…………先、生」

もう、手遅れなんですか
もう、先生には、私の ──


「────名前!」

引き金が引かれる数秒前
誰かに名前を呼ばれた気がした


霞んで何も見えなかったけれど。ただ、聞き慣れた声だったような気がしたんだ



荒野で君を見失った

(もう、届かないの?)

私の声は
 
 
title:群青三メートル手前
 
‐‐‐‐‐‐‐
夢をみる青」様に提出させていただきました

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