小説 | ナノ
痛い、赤い、痛い
腹に走る鈍痛がどんどんとはっきりしてくる。もう鈍痛ではないな。名前は小さく舌打ちをしてその場にずるずると座り込む。

ザァザァと降り注ぐ雨が名前の髪を濡らし、血を流す。止血したつもりだが、止まりそうにないなと溜め息を吐く。それさえも痛みになるのだから笑えない。

…死ぬのか。

不意に、視界がぶれた。
その原因が涙だと気付くのにそう時間はかからなかった。

零れた涙はすぐに雨に溶けるが、それでもあとからあとから溢れてくる。
拭う気力はない。どうせ紛れてしまっているから。

「…くそ」

悪態をつく。
やりようのない悔しさが込み上げてくるようだった。

不意に浮かんだのは、あいつ。青焔魔の子供。名前の相棒。

助けるんじゃないのかよ。自分から必要ないと言ったのに、女々しいな

嘲笑が浮かぶ。

なんて俺は卑怯者なのか。笑う気すら消え失せそうだ。いっそのこと、消えてしまいたい。

そのとき。

「名前」

何かが、飛び込んできた。ぎゅう、と締め付けられ思わず呻く。痛い、痛い。
けれど声を出す気力はなく。バシバシと背中を叩いて止めさせた。
飛び込んできたそれが離れる。かち合うのは蒼。少しだけ幼い顔立ち。
相棒─奥村燐。

「大丈夫か名前!?」

「大丈、夫に見えるかよバ、カ野郎」

血まみれなんだぞ。
そう苦笑いして訴えればくしゃりと燐が顔を歪ませる。もっと俺が強かったら、嘆くように呟かれた言葉に名前はゆるゆると首を振った。

思わず燐が首を傾げた。「なんで」と。

そんな彼に少しだけ息を吐いてから、囁くように伝える。

「その、ままでいい」

そしてやんわりと頭を撫でれば燐が目を見開く。対照的に名前は薄らと笑みを浮かべた。

何も君は変わらずにいて
すべては僕が背負うから

だって、相棒だから。
僕は大丈夫だから


…嗚呼、その笑顔が痛いよ




激痛
(痛くてたまらない)

「曰はく、」様に提出させていただきました

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