おめでとう、と口々にかけられて嬉しさと気恥ずかしさが込み上げてきて、情けなく笑うしかできない。 ありがとうございます、なんて今までずっと戦って来た人たちに改めて言えるだろうか。私は無理だ。
「しっかし、やっぱり似合うなぁ名前」
「俺、服に着られるって言葉がここまで似合わない人、初めてですよ」
「副長、美人ですからね。一応」
「いやいや、あの人にはもったいないくらいの美人だろ!」
「はは、おだててもなんにもでないよ」
「髪、切らなきゃ良かったのに」
なんで切っちゃったんですか?とこちらを見てくる原田に曖昧に笑う。 なんでと言われてもなんとなく、としか言いようがなかった。 にしても、褒められる、というのはこうも恥ずかしいものなんだろうか。 道場にいた時はよく門下生に似たようなことをよく言った気がする。 ミツバにも。 なるほど、顔も赤くなるわけだ。
といっても、褒めていることは違うのだからやっぱり違うものなんだろうか。 よく分からない。
にしても、こんなことになるなんてあの時は思いもしなかったけど。 人生、どうなるか分かったものじゃない。為五郎さんは知っていたのか、人生ってやつの予測不可能さを。
「名前、何をしり込みしてるんだ」
「あ、いや…なんていうか…」
ほら、と近藤さんが肩を軽く押してくる。目の前には閉められた綺麗な襖。 襖がこんなにもでっかい壁に見えたのは初めてだ。 この奥にあいつがいる。 でも今までとは立場が違う。
手を伸ばしては引っ込める。入りにくいことこの上ない。 それを見かねたのか近藤さんが襖に手をかけ勢いよく開けた。あっという間もなかった。嘘だろ。 近藤さんにまだ心の準備がっと振り返ろうとした瞬間、
「ぶぐほぉっ!」
「なーに人の嫁さんの肩に手ぇ乗せてんですか、近藤さん」
近藤さんが飛んだ。 正確には飛んできた皿が近藤さんを飛ばした。犯人は分かりきってる。 今まであった気恥ずかしさが吹っ飛んでしまった。
「それ、ここのものでしょ。どうするんだ…総悟」
「んなの、近藤さんがどうにかしてくれるでしょ」
ねぇ、といたずらっ子のように笑う彼に嘆息する。 容姿はこうも大人になったと言うのに、変わらないな。
「似合ってるじゃないですかィ。名前さん」
「…うるさい」
「はは。真っ赤になっちまって。相変わらずかわいー人でさぁ」
これから夫婦になるのに、それで大丈夫ですかィとニヤニヤ笑う総悟に「ナメるなよ」と笑い返してやったら、あんたも変わらないですねぇと言われた。 こっちの台詞だばか野郎。そう言ってやりたかったのに、笑う端正な顔を前にして私の口はだんまりとしやがった。
大丈夫、じゃないかも。
もう少しゆっくり大人になってください
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