きっと呼吸をするより容易いことだった。彼に手を伸ばすことも、愛を囁くことも。でも、本心なんてないそれは愛なんてものじゃない、ただの冒涜だから、きっと私はそれをすることなんてない。現金なやつと言われても仕方のないことだろう。 でも事実だった。 いくら愛を囁こうが、手を伸ばそうが、最後にお互いに残るのは虚しさだけだ。それに、彼は戻ってこない。戻って来たとして、それは敵としての場合が高い。味方なら、期待してないわけじゃないけれど、期待して、そのあとは。 やっぱり虚しいまま。 それが怖いから。嫌だから。 私は手を伸ばしはしないし、愛も囁かない。 終わらせなければならないなら、せめてこの手で、やるだけ。 きっとどちらにしろ虚しいことだけれど、後者なら、悲しみがそれを忘れさせてくれる気がした。
「…はー、大人だな」
俺には理解できない。言いたげにブラックスターは溜め息を吐いた。 うん、知ってる。 長年、彼と一緒にいたけれど、私とブラックスターの思考回路はまったくもって、違った。 でも私と同じ思考のブラックスターはイヤかもしれない。馬鹿みたいなポジティブ思考がブラックスターという人物だから、私みたいな暗いネガティブ思考をする彼は彼じゃない、だろう。
しばらく落ちた沈黙。 カランカラン。置かれたコップの水の氷を弄りながら「でもよ、それってさ、」と顔を上げた。
「悲しくね?」
「うん」
「つうか、それって諦めるってことだろ?ビックな俺様はぜってぇしねえ!」
「あは、ブラックスターなら、そう言うと思った」
でもね。 そうでもしないと、悲しくて虚しくて、泣きたくなるから。クロナは敵なんだって、言い聞かせなきゃやってらんないの。 私、最低で弱いから。 期待するのも、敵対するのも、否定されるのも、全部全部。怖いから。 だから。
「本当は、忘れてほしい、かな」
そしたら、私も全部忘れてさ。
「一思いに、戦える」
「…やっぱり、悲しいな、それ」
悲しいよ。そう繰り返し、眉を寄せたブラックスターにもう一度頷いて、笑った。
「ブラックスターは優しいね」
でも、騙すことでしか私は強さを確立することは、できない。 彼なら簡単にやってのけられること。たしかにそれは容易くて、けど私には難しい。
わたしはきみを守れない
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